仮の宿 学習室

応用情報技術者 APPLIED IT ENGINEER

システム戦略と企画

講義 4 本・確認問題 40 問 | 本試験では「ストラテジ系」(20問)の一部 | 最終更新 2026-09-24

この章で学ぶこと
目次
  1. 情報システム戦略と業務プロセス
  2. ソリューションとクラウドの選び方
  3. システム化企画と調達
  4. IT投資の評価とデジタル技術の活用
  5. 確認問題(40問)
  6. 演習ツール

1. 情報システム戦略と業務プロセス

個別最適に陥らないための全体最適化の考え方と、EA・業務モデリング・BPR/BPMという道具の使い分けが分かります。

情報システム戦略とは、経営戦略を実現するために、情報システムをどんな姿にしていくかを定めた方針と計画です。出発点になる問題意識は、部門ごとに都合よく作ったシステムが乱立すると、同じ顧客データが三つの台帳に別々に入り、つなぐたびに変換処理が増え、全体としては誰も幸せにならないという現実です。これを避けるため、組織全体を見渡して重複や断絶をなくす全体最適化を掲げ、その方針を全体最適化方針、実現の道筋を全体最適化計画としてまとめます。方針を決めて優先順位を裁く場が情報システム戦略委員会で、ここに経営層が入っていないと、部門間の利害調整ができずに個別最適へ戻ってしまいます。責任者を置く場合はCIO(最高情報責任者)と呼び、経営とITの橋渡しを担わせます。

全体最適化を具体的に進めるための枠組みがEA(エンタープライズアーキテクチャ)です。組織の姿を四つの体系に分けて記述します。ビジネスアーキテクチャは業務の内容と流れ、データアーキテクチャは業務が扱う情報の構造と相互関係、アプリケーションアーキテクチャは業務を支えるシステムの機能構成、テクノロジアーキテクチャはそれを動かすハードウェア・ネットワーク・基盤ソフトウェアです。上の層が下の層の要求を決め、下の層が上の層を支える関係にあります。進め方は、まず現状(As-Is)を記述し、次にあるべき姿(To-Be)を描き、両者の差を洗い出して(ギャップ分析)、埋める順番を移行計画にする、という流れです。To-Beだけを描いても、現状との差が見えなければ何から手を付けるか決められません。共通に使える型をあらかじめ用意した参照モデルを使うと、記述の粒度がそろって比較しやすくなります。

業務そのものを作り直す取組みがBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)です。既存の手順を前提に少しずつ改善するのではなく、業務の目的にさかのぼって業務プロセスを根本から設計し直します。ITはその手段として使いますが、順序が逆になってはいけません。いまの業務をそのままシステム化すると、無駄な承認段階や重複入力までシステムに固定してしまい、あとから変えにくくなります。BPRが一度きりの大きな作り直しであるのに対し、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)は、業務プロセスの設計・実行・監視・改善というPDCAを回し続ける継続的な活動です。BPMを支えるソフトウェアがBPMSで、定義したプロセスをそのまま実行し、進行状況を計測して改善に返します。定型の手続をあらかじめ定めた順路で流す仕組みがワークフローシステムで、BPMの実行部分を担います。

業務を設計し直すには、まず現状を目に見える形にしなければなりません。そのための表記法がいくつかあります。DFD(データフロー図)は、データの流れに着目して業務を表す図で、処理(プロセス)・データストア・外部実体(源泉と吸収)・データフローの四つの記号だけで書きます。全体を1枚で表したコンテキストダイアグラムから、段階的に詳細化していくのが基本の使い方です。DFDは「データがどこからどこへ流れるか」は表せますが、処理の順序や条件分岐、タイミングは表せません。BPMN(ビジネスプロセスモデル表記法)は、レーンで担当者や組織を分け、イベント・アクティビティ・ゲートウェイ・シーケンスフローで、誰が何をどんな順で行うかを表します。分岐や並行、例外の扱いまで書けるので、部門をまたぐ業務の合意形成に向きます。ほかに、データの構造を表すE-R図、業務の状態変化を表す状態遷移図、UMLのアクティビティ図やユースケース図も使われます。要は、データの流れを見たいならDFD、手順と担当を見たいならBPMNやアクティビティ図、というように、見たいものに合わせて表記法を選ぶということです。

業務プロセスの善し悪しを測る物差しも決めておきます。最終的に達成したい目標がKGI(重要目標達成指標)、その達成に決定的に効く要因がCSF(重要成功要因)、CSFの進み具合を数値で追うのがKPI(重要業績評価指標)です。たとえば「解約率を年5%まで下げる」がKGIなら、CSFは「問合せへの初回応答の速さ」、KPIは「初回応答までの平均時間」といった具合につながります。KPIは、それを改善すればKGIに近づくと言える指標でなければ意味がありません。測りやすいというだけの理由で選んだ指標を追いかけると、指標だけが良くなって目的が達成されない事態を招きます。業務プロセスの改善では、こうした指標を先に決めてから現状を測り、改善後に同じ物差しで測り直すのが基本です。

組織をまたぐ改善では、外部に任せるという選択肢も出てきます。自社の中核でない業務をまとめて外部の専門事業者に委託するのがBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)で、給与計算やコールセンタが典型です。効果は、専門事業者の規模の経済とノウハウを使えることと、自社の資源を中核業務に集中できることにあります。一方で、委託した業務の知見が自社から失われ、後から内製へ戻しにくくなること、委託先の品質や情報管理に依存することが代償です。したがって、何を中核業務とみなすかという判断が先にあり、その線引きなしにコストだけを理由にBPOを選ぶと、あとで戦略の自由度を失います。全体最適化とは、こうした「自社でやること」と「任せること」の線引きも含めた設計だと考えると、EAやBPRの位置づけが見えてきます。

EAの4体系と、そこで記述するもの
体系記述する対象よく使う成果物
ビジネスアーキテクチャ業務の内容、流れ、組織と役割業務機能構成図、業務フロー、DFD、BPMN
データアーキテクチャ業務が扱う情報の構造と関係情報体系整理図、E-R図、データ定義
アプリケーションアーキテクチャ業務を支えるシステムの機能構成情報システム関連図、機能構成図
テクノロジアーキテクチャシステムを動かす技術基盤ネットワーク構成図、ハードウェア構成図、基盤方式
/* DFDで使う記号は4つだけ */外部実体(源泉と吸収): システムの外側にあるデータの出どころと行き先。例 顧客, 取引先銀行処理(プロセス)      : データを受け取って変換し、送り出す働き。例 受注を登録するデータストア          : データが留まる場所。例 受注ファイル, 商品マスタデータフロー          : 上の3つの間を流れるデータ。矢印に名前を付ける。例 受注データ /* 受注業務の第1階層をDFDで書き下すと */顧客 --注文書--> [1 受注を登録する] --受注データ--> 《受注ファイル》《商品マスタ》 --在庫数--> [2 在庫を引き当てる] --引当結果--> 《受注ファイル》《受注ファイル》 --出荷指示--> [3 出荷を指示する] --出荷指示書--> 倉庫 /* DFDに書けないもの: 処理の順序, 条件分岐, 実行のタイミング, 制御の流れ *//* それらを表したいときはBPMNやアクティビティ図を使う */

用語

全体最適化
部門ごとの個別最適で生じる重複や断絶をなくし、組織全体として効率と効果が最大になるよう情報システムを設計する考え方。方針と計画の形で文書化する。
CIO
最高情報責任者。情報システム戦略の策定と全体最適化に責任を持ち、経営戦略とITを結び付ける役割を担う経営層の職位。
EA
エンタープライズアーキテクチャ。組織の姿をビジネス・データ・アプリケーション・テクノロジの4体系で記述し、現状とあるべき姿の差から移行計画を作る枠組み。
ギャップ分析
現状(As-Is)とあるべき姿(To-Be)を並べ、両者の差を洗い出す作業。差が見えて初めて、何から着手するかの優先順位を決められる。
参照モデル
EAで用いる、あらかじめ用意された記述の型。業務やデータの分類体系を共通化することで、部門間で粒度をそろえて比較できるようにする。
BPR
ビジネスプロセスリエンジニアリング。既存の手順を前提とせず、業務の目的にさかのぼってプロセスを根本から設計し直す取組み。ITは目的ではなく手段として使う。
BPM
ビジネスプロセスマネジメント。業務プロセスの設計・実行・監視・改善のPDCAを継続的に回す活動。一度きりの作り直しであるBPRとは時間軸が異なる。
ワークフローシステム
申請から承認までの定型の手続を、あらかじめ定めた順路に沿って電子的に流す仕組み。BPMの実行部分を担い、滞留箇所の可視化にも役立つ。
DFD
データフロー図。処理・データストア・外部実体・データフローの4記号でデータの流れを表す。処理の順序や条件分岐、タイミングは表現しない。
コンテキストダイアグラム
対象システム全体を一つの処理として描き、外部実体との間のデータの出入りだけを示したDFDの最上位の図。ここから段階的に詳細化していく。
BPMN
ビジネスプロセスモデル表記法。レーンで担当を分け、イベント・アクティビティ・ゲートウェイ・シーケンスフローで手順と分岐を表す。部門をまたぐ業務の合意形成に向く。
KGIとCSFとKPI
KGIは最終的に達成したい目標、CSFはその達成に決定的に効く要因、KPIはCSFの進み具合を測る数値指標。KPIは改善すればKGIに近づくものを選ぶ。
BPO
ビジネスプロセスアウトソーシング。中核でない業務を外部の専門事業者にまとめて委託すること。資源の集中が利点だが、知見の流出と委託先依存が代償になる。

例題

例題:「まず現行業務を詳細に調査し、その手順をそのままシステムに置き換えて効率化する」という進め方は、BPRの考え方に合っているか。
答えと考え方 合っていない。BPRは、いまの手順を所与とせず、業務の目的にさかのぼってプロセスそのものを設計し直す取組みである。現行手順をそのまま写し取ると、紙の時代に必要だった三段階の押印や、部門間の重複入力までシステムに固定してしまい、しかも一度作ると変えにくくなる。正しい順序は、業務の目的と成果を定義し、あるべきプロセス(To-Be)を描き、現状(As-Is)との差を洗い出したうえで、その差を埋める手段としてITを位置づけることである。なお現行業務の調査そのものは不要ではなく、差を測るための基準として必要になる。
例題:複数の部門がそれぞれ別の台帳に同じ顧客情報を持っていて、重複入力が起きている。この重複を洗い出して整理したい。DFDとBPMNのどちらが適しているか。
答えと考え方 DFDである。知りたいのは「どのデータがどこに溜まり、誰が読み書きしているか」であり、これはデータストアとデータフローで素直に表せる。同じ顧客データを指すデータストアが複数現れ、同じデータフローが別々の処理へ枝分かれしている箇所が、そのまま重複の候補になる。BPMNは担当と順序と分岐を表す図なので、同じことを書こうとすると手順の記述に埋もれてデータの重複が見えにくい。逆に、承認がどこで滞っているかのように順序とタイミングが論点になる場面ではBPMNが向く。見たいものに合わせて表記法を選ぶ、というのが要点である。

出典・根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

2. ソリューションとクラウドの選び方

SaaS・PaaS・IaaSの責任分界を押さえ、クラウド移行やSOA・API連携をどんな基準で選ぶかが判断できるようになります。

自社で機器を持って自社で運用する形をオンプレミスといい、これに対して、ネットワーク越しに必要なだけ計算資源やサービスを借りる形をクラウドコンピューティングといいます。米国NISTの定義では、クラウドの本質的な特徴を五つ挙げます。利用者が事業者とやり取りせずに資源を確保できるオンデマンドセルフサービス、ネットワーク経由でどこからでも使える幅広いネットワークアクセス、複数の利用者で物理資源を共有する資源の共用、需要に応じて即座に増減できる迅速な弾力性、使った量が計測され従量課金の根拠になる測定されたサービスの五つです。この五つのうち、判断に効くのは弾力性と従量課金です。需要の変動が大きい業務ほどクラウドの相対的な利点が大きく、負荷がほぼ一定で長期に使い続ける業務ほどオンプレミスのほうが安くなる可能性が出てきます。

サービスモデルは三つに分かれます。IaaS(Infrastructure as a Service)は、仮想サーバ・ストレージ・ネットワークといった基盤だけを借りる形で、OSから上は利用者が用意します。PaaS(Platform as a Service)は、OSとミドルウェア、実行環境まで事業者が用意し、利用者はアプリケーションとデータを載せます。SaaS(Software as a Service)は、完成したアプリケーションそのものを使う形で、利用者が管理するのは自分のデータと設定、利用者アカウントだけです。ここで大事なのが責任共有モデルです。事業者と利用者のどちらが何に責任を負うかは層で決まり、上のモデルへ行くほど利用者の責任範囲は狭くなります。ただし、どのモデルでも利用者の責任として必ず残るものがあります。自社のデータそのもの、アクセス権限の設定、利用者アカウントの管理です。「SaaSだからセキュリティは事業者任せでよい」という判断は成り立たず、設定ミスによる情報公開は利用者側の責任になります。

配備モデルは、単一組織が専用で使うプライベートクラウド、不特定多数が共用するパブリッククラウド、共通の関心を持つ複数組織で共用するコミュニティクラウド、これらを組み合わせて連携させるハイブリッドクラウドに分かれます。似た言葉のマルチクラウドは、複数の事業者のパブリッククラウドを併用する形で、特定事業者への依存(ベンダロックイン)を避けたり、事業者ごとの得意分野を使い分けたりする狙いがあります。ハイブリッドが「自社環境と外部を組み合わせる」話であるのに対し、マルチクラウドは「外部を複数使う」話だ、と区別すると混同しません。なお、事業者の設備に自社の機器を置かせてもらう形をハウジング、事業者の機器を借りる形をホスティングといい、これらは仮想化と自動化を前提とするクラウドとは別の概念です。

既存システムをクラウドへ移す方法にもいくつかの段階があります。仮想サーバへほぼそのまま載せ替えるリフトアンドシフト(再ホスト)は、短期間で移せる代わりに、クラウドの弾力性や運用の自動化といった利点をあまり享受できません。ミドルウェアや実行基盤をクラウドのマネージドサービスへ置き換える方式(リプラットフォーム)はその中間、アプリケーションの構造から作り直す方式(リファクタリング)は、効果が最も大きい代わりに費用と期間がかかります。市販のSaaSへ乗り換える、あるいは廃止するという判断もあります。実務では、まず移せるものを短期間で移し、効果の大きいものから順に作り直す、という二段構えが取られることが多くなります。移行の判断で見落とされがちなのが、データの持ち出しにかかる通信料金と、事業者固有のサービスに依存することで生じる乗り換えの困難さです。

システムどうしをつなぐ考え方も整理しておきます。SOA(サービス指向アーキテクチャ)は、業務機能を独立した部品(サービス)として定義し、それらを組み合わせてシステムを構成する設計思想です。業務が変わったときに、組み合わせを変えるだけで対応できることを狙います。似た方向の発想を、より小さい独立した単位と独立した配備で徹底したのがマイクロサービスアーキテクチャで、サービスごとに別のチームが別の技術で開発し、個別に配備できます。柔軟さと引き換えに、サービス間通信の遅延、分散したデータの整合、障害箇所の特定の難しさといった運用の負担が増えます。連携の実装手段としては、HTTPとJSONを使うWeb API、とりわけリソースをURIで表し、GETやPOSTなどのメソッドで操作するRESTスタイルが主流です。公開したAPIを通じて他社サービスと結び付き、新しい価値を生む動きをAPIエコノミーと呼びます。

選択の判断は、機能の適合、費用、統制の三つで考えると整理できます。SaaSは、標準機能で業務が回るなら最も安く速い選択ですが、業務のほうを標準機能に合わせる覚悟が要ります。過度なカスタマイズを求めるなら、SaaSの利点は失われ、PaaSでの構築や内製のほうが妥当になります。IaaSは自由度が高い代わりに、OS以上の運用と脆弱性対応が自社に残ります。統制の面では、データの保存場所が国外になる場合の法令適用、事業者の監査報告書の入手可否、サービス終了時のデータ返却条件を、契約前に確認しておく必要があります。クラウドの採用可否は技術の問題に見えて、実際には「業務を標準に合わせられるか」「統制を契約で担保できるか」という経営判断になります。

オンプレミスと各サービスモデルの責任分界(管理する主体)
層オンプレミスIaaSPaaSSaaS
自社データと権限設定利用者利用者利用者利用者
アプリケーション利用者利用者利用者事業者
ミドルウェアと実行環境利用者利用者事業者事業者
OS利用者利用者事業者事業者
仮想化基盤利用者事業者事業者事業者
物理サーバとストレージ利用者事業者事業者事業者
ネットワークと施設利用者事業者事業者事業者
/* RESTスタイルのWeb APIの例(受注リソース) */GET    /orders            受注の一覧を取得するGET    /orders/1024       受注番号1024を取得するPOST   /orders            受注を新規に登録するPUT    /orders/1024       受注番号1024を置き換えるDELETE /orders/1024       受注番号1024を削除する /* 応答の例 */HTTP/1.1 201 CreatedContent-Type: application/json{ "orderId": 1024, "status": "accepted" } /* 状態をサーバに持たせないので、台数を増やすだけで処理能力を伸ばせる *//* URIは操作ではなくリソースを表す。/getOrder のような設計にはしない */

用語

クラウドの5つの特徴
オンデマンドセルフサービス、幅広いネットワークアクセス、資源の共用、迅速な弾力性、測定されたサービス。判断に効くのは弾力性と従量課金の2つ。
IaaS
仮想サーバ・ストレージ・ネットワークなどの基盤を借りる形態。OS以上は利用者が用意し、運用も脆弱性対応も利用者に残るため自由度が高い。
PaaS
OSとミドルウェア、実行環境まで事業者が用意する形態。利用者はアプリケーションとデータに集中できるが、使える言語や構成は事業者の枠内に限られる。
SaaS
完成したアプリケーションを利用する形態。最も速く安く始められるが、業務を標準機能に合わせる必要があり、過度なカスタマイズには向かない。
責任共有モデル
事業者と利用者の責任範囲を層で分ける考え方。上位のモデルほど利用者の範囲は狭まるが、自社データ、アクセス権限の設定、アカウント管理は常に利用者に残る。
ハイブリッドクラウド
自社のプライベート環境とパブリッククラウドを組み合わせ、連携させて使う配備モデル。機密性の高い処理を自社に残す使い分けに用いる。
マルチクラウド
複数の事業者のパブリッククラウドを併用する形。特定事業者への依存を避け、得意分野を使い分ける狙いがある。ハイブリッドとは論点が異なる。
ベンダロックイン
特定の事業者や製品に固有の機能へ依存した結果、他へ乗り換える費用が大きくなり、実質的に離れられなくなる状態。
リフトアンドシフト
既存システムをほぼそのまま仮想サーバへ載せ替えるクラウド移行。短期間で移せるが、弾力性や運用自動化といったクラウドの利点は限定的にしか得られない。
SOA
サービス指向アーキテクチャ。業務機能を独立したサービスとして定義し、組み合わせてシステムを構成する設計思想。業務変更への追随のしやすさを狙う。
マイクロサービス
小さく独立したサービスに分割し、それぞれを個別に開発・配備する方式。柔軟だが、通信の遅延、分散データの整合、障害箇所の特定という運用負担が増える。
REST
リソースをURIで表し、GETやPOSTなどのHTTPメソッドで操作するWeb APIの設計スタイル。状態を持たない呼出しにすることで拡張しやすくする。
APIエコノミー
自社の機能をAPIとして公開し、他社サービスと結び付くことで新たな価値や収益を生む経済圏。決済や地図の連携が代表例。

例題

例題:オンプレミスのサーバをIaaSへ移した。移行後、ゲストOSのセキュリティパッチ適用は誰の責任になるか。
答えと考え方 利用者の責任である。IaaSで事業者が責任を負うのは、物理サーバ、ストレージ、ネットワーク、施設、そして仮想化基盤までで、その上に載るOS・ミドルウェア・アプリケーションは利用者が用意し、運用する。したがってゲストOSのパッチ適用も脆弱性の把握も利用者側に残る。ここを事業者任せと誤解すると、パッチが当たらないまま放置される。OSまで事業者が見るのはPaaS以上であり、どの層までを任せたいかがIaaSとPaaSを選び分ける実質的な基準になる。なお、どのモデルであっても、自社データ、アクセス権限の設定、利用者アカウントの管理は利用者の責任として必ず残る。
例題:初期費用4000万円、年間運用費500万円のオンプレミス案と、初期費用なし、年間利用料1500万円のクラウド案がある。何年使うと総額が並ぶか。長期利用が確実な場合、どちらが有利か。
答えと考え方 オンプレミス案の総額は 4000 + 500n、クラウド案は 1500n。等しくなるのは 4000 = 1000n より n = 4年で、どちらも6000万円になる。4年より短ければクラウドが安く、4年を超えるとオンプレミスが安い。したがって長期利用が確実なら費用だけを見ればオンプレミスが有利になる。ただし判断材料は総額だけではない。需要が急に増減する見込み、機器の陳腐化と更改費用、運用要員の確保、初期投資を避けたいという資金繰りの事情も加味する。逆に、負荷がほぼ一定で長く使い続ける業務ほど、クラウドの弾力性という利点が効かなくなる点は押さえておきたい。

出典・根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

3. システム化企画と調達

構想から要件定義までの段取りと、RFI・RFPによる調達、請負と準委任の使い分けが分かります。

システムを作ると決めてから作り始めるまでには、順番の決まった段取りがあります。まずシステム化構想の立案で、経営上の課題からシステム化の対象業務と目的、期待する効果、大まかな全体像を描きます。次にシステム化計画の立案で、対象範囲、開発方式、体制、概算費用、スケジュール、投資対効果、リスクを具体化して、投資の可否を経営が判断できる材料にします。そして要件定義で、利用者にとって何ができればよいかを定めます。ここで押さえるべきは、構想と計画は「何のために作るか」「投資に見合うか」を決める段階であり、要件定義は「何を作るか」を決める段階だという役割の違いです。共通フレームでも、企画プロセスと要件定義プロセスは開発プロセスの前段として位置づけられています。順番を飛ばして要件定義から始めると、そもそも何のための投資だったかが誰も答えられなくなります。

要件は三つに分けて考えます。業務要件は、新しい業務をどう回すかという業務側の要求です。機能要件は、システムが何をするかという振る舞いの要求です。非機能要件は、性能、可用性、拡張性、運用性、移行性、セキュリティ、システム環境といった、機能以外の品質と制約の要求です。応用情報でよく問われるのは非機能要件の扱いで、これが曖昧なまま契約すると、後で「応答が遅い」「障害時に戻せない」といった揉め事になります。合意の粒度をそろえるための道具がIPAの非機能要求グレードで、可用性・性能拡張性・運用保守性・移行性・セキュリティ・システム環境とエコロジーの六つの観点ごとに、達成すべき水準を段階で示して選ばせる形になっています。要件定義の成果物は要件定義書で、これに合意しないまま設計へ進むのは、行き先を決めずに出発するのと同じです。

作るものが決まったら、誰に作ってもらうかを決めます。調達の入口がRFI(情報提供依頼書)で、市場にどんな製品や技術があるか、どの事業者が対応できそうかという情報を集める段階です。ここではまだ提案を求めません。次にRFP(提案依頼書)で、システム化の背景と目的、要件、前提条件と制約、提案してほしい範囲、契約条件、そして提案の評価基準とスケジュールを示して、正式に提案を求めます。RFPに要件と評価基準を書いておくことが要点で、これが曖昧だと事業者ごとに前提の違う提案が出てきて比較できません。受け取った提案書は、あらかじめ決めた基準と重み付けに従って評価します。金額だけで選ぶと、実現性の低い安値提案を掴むことになりかねないので、技術的な実現性、体制、実績、保守の条件も含めた総合評価にするのが通例です。評価の公正さを保つため、評価基準は提案を受け取る前に確定させ、評価に関わる者と提案者との個別接触を制限します。

契約の形は、成果に対して払うのか、行為に対して払うのかで大きく変わります。請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払う契約です(民法 第632条)。仕事の完成が義務なので、完成しなければ原則として報酬を請求できません。引き渡した目的物が種類または品質について契約の内容に適合しない場合は契約不適合責任を負い、注文者は不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、追完請求・報酬減額請求・損害賠償請求・解除ができなくなります(民法 第637条)。また、仕事が完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約を解除できます(民法 第641条)。委任は、法律行為をすることを相手方に委託して承諾を得る契約で(民法 第643条)、法律行為でない事務の委託には委任の規定が準用され、これを準委任といいます(民法 第656条)。システム開発の役務提供は法律行為ではないので、準委任にあたります。

準委任では、受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法 第644条)。つまり求められるのは、決められた品質の作業を誠実に行うことであって、成果物の完成そのものではありません。報酬は、特約がなければ請求できず、履行した後に請求するのが原則で、履行の割合に応じた請求も定められています(民法 第648条)。なお、平成29年の民法改正で、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う型が明文化されており(民法 第648条の2)、いわゆる成果完成型の準委任がこれにあたります。したがって「準委任なら成果物に関する定めは一切ない」という理解は正確ではありません。契約はいつでも解除できるのが委任の原則ですが、相手方に不利な時期の解除などでは損害賠償が必要になります(民法 第651条)。請負との違いを一言でいえば、完成義務と契約不適合責任を負うのが請負、善管注意義務を負うのが準委任、ということになります。

工程によって不確実性の度合いが違うので、一つの契約で全工程をまとめるのは無理があります。そこでIPAの情報システム・モデル取引・契約書では、工程ごとに契約を分ける多段階契約の考え方を採ります。要件が固まっていない要件定義のような工程は準委任、要件が確定していて成果物を特定できる設計から製造の工程は請負、利用者の主体的な関与が前提となる受入支援や運用テストの支援は準委任、というように工程の性質で選び分けるのが基本です。要件が未確定の段階で請負契約を結ぶと、何をもって完成とするかを決められないまま完成義務だけが生じ、揉め事の温床になります。モデル取引・契約書は中立の立場で作られており、平成29年民法改正への対応のほか、プロジェクトマネジメント義務と協力義務、セキュリティ、複数契約の関係といった論点も整理されています。なお、委託先の要員に自社が直接指揮命令を行うと、契約の名目が請負や準委任でも実態は労働者派遣とみなされる(偽装請負)ため、指揮命令系統を混ぜないことが運用上の大前提になります。

請負と準委任の違い
観点請負準委任
約束する内容仕事の完成(民法 第632条)事務の処理(民法 第656条により委任の規定を準用)
受注者の中心的な義務仕事を完成させること善良な管理者の注意をもって処理すること(民法 第644条)
成果物の不適合への責任契約不適合責任を負う原則として負わない。善管注意義務違反があれば債務不履行責任
不適合の通知期限知った時から1年以内に通知(民法 第637条)該当する規定はない
報酬の考え方仕事の結果に対して支払う特約がなければ請求できず、履行した後に請求(民法 第648条)
成果に報酬を結び付ける型本来の形成果完成型として可能(民法 第648条の2)
発注者からの解除完成前はいつでも損害賠償して解除可(民法 第641条)各当事者がいつでも解除可。不利な時期などは損害賠償(民法 第651条)
向いている工程要件が確定し成果物を特定できる設計から製造要件が未確定の要件定義、利用者の関与が前提の受入支援
/* 調達の流れと、それぞれの段階で確定させるもの */1. RFI(情報提供依頼)  : 市場にどんな解があるか。事業者の対応可否と概略情報を集める2. RFP(提案依頼)      : 目的, 要件, 制約, 提案範囲, 契約条件, 評価基準を提示して提案を求める3. 提案書の受領         : 事業者から機能, 体制, 実績, 見積金額, スケジュールの提案を受ける4. 提案評価             : 事前に決めた基準と重みで採点する。金額のみで決めない5. ベンダー選定と契約   : 工程の性質に応じて請負か準委任かを選ぶ(多段階契約) /* 工程と契約形態の対応の目安 */要件定義       -> 準委任(要件が未確定なので完成の定義ができない)外部設計       -> 準委任または請負(成果物を特定できるかで判断)内部設計から製造, 結合テスト -> 請負(成果物が特定でき、完成を判定できる)システムテスト, 受入支援     -> 準委任(利用者の主体的な関与が前提)

用語

システム化構想の立案
経営上の課題から、システム化の対象業務・目的・期待効果・全体像を描く段階。何のために作るのかを定める、企画の入口。
システム化計画の立案
対象範囲・開発方式・体制・概算費用・スケジュール・投資対効果・リスクを具体化し、投資の可否を経営が判断できる材料にする段階。
非機能要件
性能、可用性、拡張性、運用保守性、移行性、セキュリティ、システム環境など、機能以外の品質と制約に関する要求。曖昧なまま契約すると後の紛争の種になる。
非機能要求グレード
非機能要件の合意を助けるためにIPAが示す枠組み。6つの観点ごとに水準を段階で提示し、発注側と受注側が同じ物差しで選べるようにする。
RFI
情報提供依頼書。市場にどんな製品や技術があり、どの事業者が対応できるかという情報を集める段階の文書。提案そのものはまだ求めない。
RFP
提案依頼書。背景と目的、要件、前提と制約、提案範囲、契約条件、評価基準とスケジュールを示して正式に提案を求める文書。
提案評価
あらかじめ定めた基準と重み付けに従って提案書を採点する作業。金額だけでなく実現性・体制・実績・保守条件を含めた総合評価にするのが通例。
請負
仕事の完成を約束し、その結果に対して報酬を支払う契約。完成義務と契約不適合責任を負う。根拠は民法 第632条。
準委任
法律行為でない事務の委託。委任の規定が準用される。受任者は善管注意義務を負うが、成果物の完成義務は原則として負わない。根拠は民法 第656条。
善管注意義務
善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務。準委任における受任者の中心的な義務で、根拠は民法 第644条。
成果完成型の準委任
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うと約した型。民法 第648条の2に定めがあり、準委任でも成果に報酬を結び付けられる。
多段階契約
工程ごとに契約を分け、工程の性質に合った契約形態を選ぶ考え方。要件が固まっていない工程は準委任、成果物を特定できる工程は請負とするのが基本。
情報システム・モデル取引・契約書
IPAが公開する、発注側と受注側の中立を目指したモデル契約書。多段階契約、民法改正への対応、プロジェクトマネジメント義務と協力義務などを整理している。
偽装請負
契約の名目は請負や準委任でありながら、発注者が委託先の要員へ直接指揮命令を行い、実態が労働者派遣になっている状態。

例題

例題:準委任契約で発注するが、「成果物が出ないまま費用だけ払うことになるのは避けたい」と社内から懸念が出た。どう答えるか。
答えと考え方 準委任でも成果に報酬を結び付ける型が民法に定められている(民法 第648条の2)。委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うと約する、いわゆる成果完成型で、成果の引渡しを要するときは引渡しと同時に報酬を支払う。したがって「準委任だから成果物に関する定めは置けない」という理解は正確ではない。一方、履行割合型を選ぶ場合でも、受任者は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う(民法 第644条)ので、何もしなくてよいわけではない。懸念に応えるには、契約書で成果物の定義、中間の報告と受領の手続、報酬の支払条件を具体的に書き込むことになる。
例題:RFPに「本システムに求める性能要件は、一般的な業務システムとして十分な水準とする」と記載した。何が問題で、どう書くべきか。
答えと考え方 評価も検収もできない書き方である。「十分な水準」は人によって解釈が違い、提案してくる事業者ごとに前提が変わるので、提案を横に並べて比較できない。納品後も、遅いと感じたときに契約違反だと言えず、追加費用を払って直すことになる。非機能要件は測れる形で書く必要があり、たとえば同時利用者数、対象となる画面や処理、目標とする応答時間、その測定条件、といった要素をそろえる。IPAの非機能要求グレードのように、観点ごとに水準を段階で示す枠組みを使うと、発注側と受注側が同じ物差しで合意しやすくなる。

出典・根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

4. IT投資の評価とデジタル技術の活用

投資回収期間・ROI・NPV・TCOで投資の善し悪しを判断し、IoTやAI、データ利活用の使いどころを見極められるようになります。

IT投資は「効果がありそうだから」では通りません。金額に換算した効果と費用を並べて、投資に値するかを説明できる形にします。最も単純なのが投資回収期間法(ペイバック法)で、初期投資を毎年の効果額で回収し終えるまでの年数を求めます。分かりやすく、短いほどリスクが小さいと言えるのが利点ですが、回収後に生じる効果を一切考えないという弱点があります。回収に3年かかるが10年効果が続く案と、2年で回収するが3年で終わる案では、回収期間だけを見ると後者が勝ってしまいます。次にROI(投資利益率)で、投資額に対して得られた利益の割合を示します。ここで注意したいのは、分子が「効果額」ではなく「利益」だという点です。年間の効果額から、その効果を得るためにかかる運用費を差し引いた額を使います。運用費を引き忘れると、実力より良い数字が出ます。

お金の時間価値を考慮するのがNPV(正味現在価値)です。1年後の100万円は、いま手元にある100万円より価値が低いという前提に立ち、将来の効果額を割引率で割り引いて現在価値に直します。n年後の金額の現在価値は、その金額を(1 + 割引率)のn乗で割った値です。すべての年の現在価値を合計し、そこから初期投資を引いた値がNPVで、正なら投資に値すると判断します。割引率を高く設定するほど将来の効果は小さく評価されるので、リスクの高い案件には高い割引率を当てるという使い方をします。NPVがちょうど0になる割引率をIRR(内部収益率)といい、これが資本コストを上回るかどうかで判断する方法もあります。回収期間法とNPVを比べると、回収期間法は時間価値も回収後の効果も無視するのに対し、NPVは両方を織り込むぶん、判断の根拠としては強くなります。

費用の側を漏れなく数えるための考え方がTCO(総所有コスト)です。導入時にかかるイニシャルコスト(機器、ソフトウェアライセンス、構築費、移行費、教育費)だけでなく、稼働後に毎年かかるランニングコスト(保守費、通信費、電力、運用要員の人件費、更改費用)まで含めた総額で比べます。導入費が安い案が、運用費まで含めると高くつくというのはよくある話で、クラウドとオンプレミスの比較はまさにこれにあたります。初期投資が大きく年間費用が小さい案と、初期投資がなく年間費用が大きい案は、どこかの年で総額が並びます。何年使うつもりかを決めなければ、どちらが安いかは決まりません。IT投資を性質で分類して配分を考える見方もあり、業務の効率化を狙うもの、情報活用を狙うもの、事業の変革を狙うもの、共通基盤を整えるものでは、期待する効果の測り方もリスクの大きさも異なります。

近年の投資判断の中心にあるのがデジタル技術の活用です。IoTは、機器やセンサをネットワークにつなぎ、現場の状態を継続的に取得して活用する仕組みです。振動や温度の変化から故障の兆しを捉えて壊れる前に手を打つ予兆保全、現実の設備を仮想空間に写し取って挙動を試すデジタルツインなどが代表的な使い方になります。大量の機器を安く長期間つなぐため、低速だが低消費電力で遠くまで届くLPWAのような通信方式が使われます。すべてのデータをクラウドへ送ると通信量と遅延が問題になるので、現場側の機器で一次処理を行うエッジコンピューティングと組み合わせるのが定石です。IoTで押さえるべき判断は「何を測れば意思決定が変わるか」であり、測れるからという理由でデータを集めても、使い道がなければ通信費と保管費だけが積み上がります。

AIの使いどころも、万能の道具としてではなく、向き不向きで考えます。機械学習は、正解付きのデータから規則を学ぶ教師あり学習、正解なしでデータの構造を見つける教師なし学習、試行錯誤の結果に報酬を与えて方策を学ぶ強化学習に大別されます。需要予測や与信判定のように過去データと結果の対応が大量にある領域、画像や音声のように人手では処理量が追いつかない領域は向いています。反対に、判断の根拠を明示する必要がある領域、正解データが揃わない領域、めったに起きない事象の予測は苦手です。実務上の要点は三つあります。学習データの偏りがそのまま出力の偏りになること、なぜその結論になったかを説明しにくい場合があること(説明可能性の問題)、そして生成AIでは事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあることです。したがってAIの出力を最終決定にするのではなく、人が確認して責任を負う設計にするのが基本になります。

データを使えるようにする土台の整備も投資の対象です。分析用に整理して蓄積した基盤がデータウェアハウス、加工前の生データを形式を問わずそのまま溜める場所がデータレイクです。前者は用途を決めて構造化してから入れるのに対し、後者はとりあえず溜めて後から使い道を決められる、という違いがあります。用途別に切り出した小規模なものがデータマート、大量データから規則性や関連を見つけ出す手法がデータマイニング、集計と可視化で意思決定を支援する仕組みがBIツールです。組織横断でデータの定義や品質、権限を管理する取組みをデータガバナンスといい、これがないと同じ「売上」という語が部門ごとに違う意味で使われ、分析結果が食い違います。行政や企業が二次利用できる形で公開するデータがオープンデータで、自社データと組み合わせることで新しい示唆が得られます。データ利活用への投資は効果が読みにくいので、まず問いを立て、その問いに答えるために必要なデータだけを対象に小さく試す、という進め方が現実的です。

IT投資の評価手法の比較
手法計算のしかた強みと弱み
投資回収期間法初期投資を毎年の効果額で回収し終える年数を求める分かりやすくリスクの目安になるが、回収後の効果と時間価値を無視する
ROI利益を投資額で割る。利益は効果額から運用費を引いた額案の規模が違っても比べられるが、効果が続く期間と時間価値を反映しない
NPV各年の効果額を割引率で現在価値に直して合計し、初期投資を引く時間価値と全期間の効果を織り込める。割引率の設定に結果が左右される
IRRNPVが0になる割引率を求める率で比較できるが、投資額の大小が見えず、複数解が出る場合がある
TCOイニシャルコストとランニングコストを想定利用年数ぶん合計する費用側を漏れなく数えられるが、効果を評価しないので単独では可否を決められない
/* 正味現在価値(NPV)の計算 */○実数型: npv(実数型: 初期投資, 実数型の配列: 効果額, 実数型: 割引率)  実数型: 合計 ← 0  for (n を 1 から 効果額の要素数 まで 1 ずつ増やす)    合計 ← 合計 + 効果額[n] / (1 + 割引率)ⁿ  endfor  return 合計 - 初期投資 /* 投資回収期間(毎年の効果額が一定でない場合) */○実数型: payback(実数型: 初期投資, 実数型の配列: 効果額)  実数型: 累計 ← 0  for (n を 1 から 効果額の要素数 まで 1 ずつ増やす)    if (累計 + 効果額[n] ≧ 初期投資)      return (n - 1) + (初期投資 - 累計) / 効果額[n]    endif    累計 ← 累計 + 効果額[n]  endfor  return -1  /* 期間内に回収できない */

用語

投資回収期間法
初期投資を毎年の効果額で回収し終えるまでの年数で評価する方法。分かりやすいが、回収後に続く効果とお金の時間価値を考慮しない。
ROI
投資利益率。投資額に対する利益の割合。分子は効果額そのものではなく、効果額から運用費などを差し引いた利益である点に注意する。
NPV
正味現在価値。将来の効果額を割引率で現在価値に直して合計し、初期投資を引いた値。正なら投資に値すると判断する。
割引率
将来の金額を現在価値に直すときに用いる率。n年後の金額は(1 + 割引率)のn乗で割る。リスクが高い案件ほど高い率を当てる。
IRR
内部収益率。NPVがちょうど0になる割引率。これが資本コストを上回るかどうかで投資の可否を判断する方法がある。
TCO
総所有コスト。導入時のイニシャルコストと、稼働後のランニングコストを合わせた総額。何年使うかを決めないと案の比較ができない。
予兆保全
センサで得た振動や温度などの変化から故障の兆しを捉え、壊れる前に手を打つ保全方式。停止による損失と保全費用の両方を下げられる。
デジタルツイン
現実の設備や工程を仮想空間に写し取り、実物を動かさずに挙動や変更の影響を試せるようにする仕組み。
LPWA
低消費電力で広い範囲をカバーする無線通信方式の総称。通信速度は低いが、多数のセンサを長期間つなぐIoT用途に向く。
エッジコンピューティング
現場に近い機器側でデータの一次処理を行う方式。クラウドへ送る通信量と応答遅延を抑えられ、IoTと組み合わせて使われる。
教師あり学習と教師なし学習
前者は正解付きのデータから入力と出力の対応規則を学ぶ方式、後者は正解なしでデータの構造や集まりを見つける方式。強化学習は報酬を手掛かりに方策を学ぶ。
説明可能性
AIがなぜその結論を出したのかを人が理解できる度合い。与信や採用のように理由の提示が求められる領域では、精度だけでなくこの性質が要件になる。
データウェアハウスとデータレイク
前者は用途を決めて構造化したうえで蓄積する分析基盤、後者は生データを形式を問わずそのまま溜める置き場。後から使い道を決められるのが後者の利点。
データガバナンス
組織横断でデータの定義・品質・権限を管理する取組み。これがないと同じ語が部門ごとに違う意味で使われ、分析結果が食い違う。

例題

例題:初期投資3600万円、毎年の効果額が900万円で一定のとき、投資回収期間は何年か。また、この指標だけで投資を判断してよいか。
答えと考え方 3600 / 900 = 4年である。判断はこれだけでは足りない。回収期間法は、回収し終えた後に効果がどれだけ続くかをまったく考えない。仮にこの案の効果が5年目以降も10年続くなら実際の価値は大きいし、5年目に設備更改が必要なら価値は小さい。またお金の時間価値も無視しているので、同じ900万円でも1年後と4年後では価値が違うという点も反映されない。回収期間はリスクの目安として使い、投資の可否はNPVのように全期間と時間価値を織り込んだ指標と併せて判断する。
例題:初期投資1000万円、1年後から3年間にわたり毎年400万円の効果が見込まれる案がある。割引率を5%としたとき、NPVはいくらか。投資に値するか。
答えと考え方 各年の現在価値は、1年後が 400 / 1.05 = 380.95万円、2年後が 400 / 1.05² = 362.81万円、3年後が 400 / 1.05³ = 345.54万円。合計すると1089.30万円で、初期投資1000万円を引いたNPVは約89.3万円である。正の値なので投資に値すると判断できる。割り引かずに単純合計すると1200万円となり、差引きは200万円と出るが、これは時間価値を無視した過大評価である。同じ効果額でも受け取る時期が遅いほど価値が下がる、というのがNPVの考え方の中心にある。

出典・根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

確認問題(40問)

四肢択一。「正解と解説」を開くと、正解の理由と他の選択肢が違う理由を確認できます。

問1|全体最適

情報システム戦略における全体最適化の考え方として、適切なものはどれか。

  1. 各部門が自部門の業務に最も適したシステムを個別に選定し、必要に応じて連携機能を後から追加する
  2. 組織全体を見渡して機能やデータの重複と断絶をなくし、組織としての効率と効果が最大になるよう設計する
  3. 最も利用者数の多い部門のシステムを基準として、他部門にそのまま利用させる
  4. 既存システムの保守費用が最も小さくなる構成を選び、新規開発は行わない
正解と解説
正解:B. 組織全体を見渡して機能やデータの重複と断絶をなくし、組織としての効率と効果が最大になるよう設計する

全体最適化は、部門ごとの個別最適が積み重なった結果として生じる、データの重複、変換処理の増殖、部門をまたぐ業務の断絶を解消し、組織全体として効率と効果を最大にしようとする考え方である。各部門が個別に選定して後から連携を足す進め方は、まさにその個別最適そのものになる。最大部門のシステムを他部門に押し付けるのは業務適合を無視した力技であり、保守費用の最小化はコスト最適化であって全体最適化とは別の観点である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問2|EA4体系

EA(エンタープライズアーキテクチャ)の4体系のうち、業務が扱う情報の構造や相互関係を記述するものはどれか。

  1. ビジネスアーキテクチャ
  2. アプリケーションアーキテクチャ
  3. テクノロジアーキテクチャ
  4. データアーキテクチャ
正解と解説
正解:D. データアーキテクチャ

データアーキテクチャは、組織の業務が扱う情報の意味、構造、相互関係を記述する体系で、情報体系整理図やE-R図などを成果物とする。ビジネスアーキテクチャは業務の内容と流れ、アプリケーションアーキテクチャは業務を支えるシステムの機能構成、テクノロジアーキテクチャはそれを動かすハードウェア・ネットワーク・基盤ソフトウェアを記述する。上の層が下の層への要求を決め、下の層が上を支えるという関係で4つが積み重なっている。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問3|現状分析

EAの導入において、あるべき姿(To-Be)だけでなく現状(As-Is)も記述する理由として、適切なものはどれか。

  1. 両者の差を洗い出し、何から着手すべきかという移行計画の根拠を得るため
  2. 現状の記述量が多いほど、あるべき姿の完成度が高いとみなされるため
  3. 現状を記述しないと、参照モデルを購入できないため
  4. 現状の構成をそのまま維持することが、EAの目的であるため
正解と解説
正解:A. 両者の差を洗い出し、何から着手すべきかという移行計画の根拠を得るため

As-IsとTo-Beを並べて差を洗い出す作業をギャップ分析といい、これがEAの実務上の中心になる。あるべき姿だけを描いても、いまとの隔たりが分からなければ、何を、どの順で、どれだけの費用と期間をかけて変えるのかが決められない。差が具体的に見えて初めて移行計画が書ける。記述量の多さが完成度を示すわけではなく、参照モデルの利用に現状記述が前提となるわけでもない。現状維持はEAの目的とは正反対である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問4|BPR

BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)の考え方に沿った進め方はどれか。

  1. 現行の業務手順を詳細に記録し、その手順を忠実にシステムへ置き換える
  2. 現行組織の部門構成を維持したまま、部門ごとに処理速度の改善目標を設定する
  3. 業務の目的にさかのぼってプロセスを設計し直し、その実現手段としてITを位置づける
  4. 既存パッケージの標準機能に合わせて、不足する機能をすべて追加開発する
正解と解説
正解:C. 業務の目的にさかのぼってプロセスを設計し直し、その実現手段としてITを位置づける

BPRは、既存の手順を所与とせず、業務の目的そのものにさかのぼってプロセスを根本から設計し直す取組みである。ITは目的ではなく、設計し直したプロセスを実現するための手段として位置づける。現行手順をそのままシステム化すると、紙の時代の重複入力や不要な承認段階まで固定してしまう。部門構成を維持したままの部分改善は継続的改善であってBPRではなく、不足機能をすべて追加開発するのはパッケージ導入の方針の話で、プロセスの再設計とは関係がない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問5|BPM

BPM(ビジネスプロセスマネジメント)の説明として、適切なものはどれか。

  1. 業務プロセスを一度だけ抜本的に作り直し、その後は変更しない取組み
  2. 業務プロセスの設計・実行・監視・改善を繰り返し、継続的に見直していく取組み
  3. 業務システムの障害を受け付けて復旧させる運用上の取組み
  4. 業務に必要な文書を電子化して保存期間を管理する取組み
正解と解説
正解:B. 業務プロセスの設計・実行・監視・改善を繰り返し、継続的に見直していく取組み

BPMは、業務プロセスを設計し、実行し、実績を監視し、改善するというPDCAを回し続ける継続的な活動である。一度きりの抜本的な作り直しはBPRであり、両者は時間軸が違う。BPMを支えるソフトウェアがBPMSで、定義したプロセスをそのまま実行して進行状況を計測し、改善に返す。障害の受付と復旧はインシデント管理、文書の電子化と保存管理は文書管理であり、いずれもBPMの説明ではない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問6|DFD

DFD(データフロー図)で表現できないものはどれか。

  1. データがどの処理からどの処理へ流れるか
  2. データが蓄積される場所
  3. システムの外部にあるデータの発生元と行き先
  4. 処理を実行する順序と条件による分岐
正解と解説
正解:D. 処理を実行する順序と条件による分岐

DFDは、処理・データストア・外部実体・データフローという4つの記号でデータの流れを表す図である。したがって、どの処理からどの処理へ何が流れるか、どこにデータが溜まるか、外部の発生元と行き先はどこかは表現できる。表現できないのは、処理の実行順序、条件による分岐、実行のタイミングといった制御に関する情報である。これらを表したいときはBPMNやUMLのアクティビティ図を用いる。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問7|図の選択

複数部門をまたぐ承認手続について、どの部門の作業で滞留が起きているかを関係者と共有し、差戻しの条件を含めて合意したい。適した表記法はどれか。

  1. BPMN
  2. DFD
  3. E-R図
  4. コンテキストダイアグラム
正解と解説
正解:A. BPMN

滞留の箇所と差戻しの条件は、順序と分岐、そして誰の担当かという情報である。BPMNは、レーンで担当部門を分け、シーケンスフローで順序を、ゲートウェイで条件分岐や差戻しを、イベントで待ちや例外を表現できるので、この用途に適する。DFDはデータの流れを表す図で、順序も分岐も表せない。E-R図はデータの構造と関連を表す図、コンテキストダイアグラムは対象システム全体を1つの処理として外部との出入りだけを描いたDFDの最上位図であり、どれも手順の議論には使えない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問8|KPI

KGI・CSF・KPIの関係として、適切なものはどれか。

  1. KPIが最終的な到達目標であり、CSFはその実現手段、KGIは進捗を測る指標である
  2. KGIとKPIは同じものを指し、CSFはそれらを達成する組織体制を表す
  3. KGIが最終的な到達目標、CSFがその達成に決定的に効く要因、KPIがCSFの進み具合を測る指標である
  4. CSFが最終的な到達目標、KGIがその原因、KPIが結果を表す
正解と解説
正解:C. KGIが最終的な到達目標、CSFがその達成に決定的に効く要因、KPIがCSFの進み具合を測る指標である

KGIは最終的に達成したい目標、CSFはその達成に決定的に効く成功要因、KPIはCSFの進み具合を数値で追う指標であり、この順に目標から手段へと降りていく。たとえばKGIが解約率の低減なら、CSFは初回応答の速さ、KPIは初回応答までの平均時間、といったつながりになる。要点は、KPIは改善すればKGIに近づくと言える指標でなければならないことで、測りやすいという理由だけで選ぶと指標だけが良くなり目的が達成されない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問9|BPO

BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を採用する際に、あらかじめ検討しておくべき代償として最も適切なものはどれか。

  1. 委託した業務の処理量が増えても、費用は一切変動しなくなること
  2. 委託した業務に関する自社の知見が失われ、後から内製へ戻すことが難しくなること
  3. 委託によって、自社の中核業務に資源を集中できなくなること
  4. 委託先が専門事業者であるため、規模の経済が働かなくなること
正解と解説
正解:B. 委託した業務に関する自社の知見が失われ、後から内製へ戻すことが難しくなること

BPOの利点は、専門事業者の規模の経済とノウハウを使えることと、自社の資源を中核業務へ集中できることにある。一方の代償は、委託した業務の知見が社内から失われ、内製へ戻す判断がしにくくなること、そして委託先の品質や情報管理に依存することである。したがって「何を自社の中核業務とみなすか」を先に決めずに、費用だけを理由に委託先を広げると、後から戦略の自由度を失う。資源の集中と規模の経済は利点であり代償ではなく、費用が処理量に一切連動しなくなるという説明も誤りである。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問10|指標の質

問合せ対応の改善で「顧客満足度の向上」をKGIに掲げた。KPIの選び方として最も適切なものはどれか。

  1. 集計が最も容易な、1日あたりの受電件数をKPIとする
  2. 改善すればKGIに近づくと説明できる、初回応答までの平均時間をKPIとする
  3. 他社が公表していて比較しやすい、オペレータ1人あたりの月間対応件数をKPIとする
  4. 既存システムから追加費用なしで取得できる、電話の平均通話時間をKPIとする
正解と解説
正解:B. 改善すればKGIに近づくと説明できる、初回応答までの平均時間をKPIとする

KPIは、それを改善すればKGIに近づくと因果関係を説明できる指標でなければ意味がない。初回応答までの平均時間は、待たされないことが満足度に効くという説明が成り立つのでKPIとして妥当である。受電件数は需要の大小を示すだけで満足度とは結び付かない。1人あたりの対応件数は生産性の指標で、上げようとすれば一件あたりを雑にする誘因が働き、満足度と逆方向に作用しうる。平均通話時間も、短ければよいとは限らず、短縮が満足度低下を招く場合がある。集計の容易さ、比較のしやすさ、取得費用は、因果関係の代わりにはならない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問11|弾力性

クラウドサービスの本質的な特徴の一つである「迅速な弾力性」の説明として、適切なものはどれか。

  1. 障害が発生しても、事業者が自動的にデータを復元してくれること
  2. 利用者ごとに専用の物理サーバが割り当てられ、性能が保証されること
  3. 需要の変動に応じて、利用する資源の量を短時間で増減できること
  4. 契約期間中は料金が変わらず、予算計画が立てやすいこと
正解と解説
正解:C. 需要の変動に応じて、利用する資源の量を短時間で増減できること

迅速な弾力性とは、需要が増えれば資源を短時間で増やし、減れば返せる性質を指す。使った量が計測されて従量課金の根拠になる「測定されたサービス」と組み合わさることで、繁忙期だけ資源を増やして費用も需要に追随させる、という使い方ができる。逆に負荷がほぼ一定の業務では、この特徴の値打ちが小さくなる。データの自動復元は事業者ごとのサービス内容、専用の物理サーバの割当ては資源の共用という特徴と矛盾し、料金が変わらないことは従量課金とは逆の説明である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問12|PaaS

PaaSの説明として、適切なものはどれか。

  1. OSとミドルウェア、実行環境までを事業者が用意し、利用者はアプリケーションとデータを載せる
  2. 仮想サーバやストレージなどの基盤だけを借り、OS以上は利用者が用意する
  3. 完成したアプリケーションを利用し、利用者は自分のデータと設定だけを管理する
  4. 事業者の施設に自社所有の機器を設置し、電源と回線だけを借りる
正解と解説
正解:A. OSとミドルウェア、実行環境までを事業者が用意し、利用者はアプリケーションとデータを載せる

PaaSは、OS・ミドルウェア・実行環境まで事業者側が用意する形態で、利用者はアプリケーションとデータに集中できる。その代わり、使える言語や構成は事業者が用意した枠内に限られる。基盤だけを借りてOS以上を自分で用意するのはIaaS、完成したアプリケーションを使うのはSaaSである。事業者の施設に自社機器を置いて電源と回線を借りるのはハウジングで、仮想化と自動化を前提とするクラウドとは別の概念である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問13|責任分界

SaaSを利用する場合に、責任共有モデルの下で利用者の責任範囲に残るものはどれか。

  1. アプリケーションの脆弱性修正
  2. ミドルウェアのバージョン管理
  3. 物理サーバの保守と交換
  4. 利用者アカウントとアクセス権限の設定
正解と解説
正解:D. 利用者アカウントとアクセス権限の設定

責任共有モデルでは、上位のサービスモデルほど事業者の責任範囲が広くなるが、どのモデルでも利用者に残るものがある。自社のデータそのもの、利用者アカウントの管理、アクセス権限や公開範囲の設定である。SaaSではアプリケーション本体の脆弱性修正、ミドルウェアの管理、物理サーバの保守はいずれも事業者の責任になる。実際の事故で多いのは設定の誤りによる情報の意図しない公開であり、これは利用者側の責任範囲に属する。「SaaSにすればセキュリティは任せられる」という理解は成り立たない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問14|配備形態

ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの違いとして、適切なものはどれか。

  1. ハイブリッドクラウドは仮想化を用い、マルチクラウドは物理サーバだけを用いる
  2. ハイブリッドクラウドは自社環境と外部のクラウドを組み合わせる形、マルチクラウドは複数の事業者のクラウドを併用する形である
  3. ハイブリッドクラウドは複数の事業者を併用する形、マルチクラウドは自社環境と外部を組み合わせる形である
  4. ハイブリッドクラウドは国内の事業者だけを使い、マルチクラウドは国外の事業者も使う
正解と解説
正解:B. ハイブリッドクラウドは自社環境と外部のクラウドを組み合わせる形、マルチクラウドは複数の事業者のクラウドを併用する形である

ハイブリッドクラウドは、自社のプライベート環境とパブリッククラウドなど、性質の異なる環境を組み合わせて連携させる配備モデルで、機密性の高い処理を自社に残すといった使い分けに用いる。マルチクラウドは、複数の事業者のパブリッククラウドを併用する形で、特定事業者への依存を避けたり得意分野を使い分けたりする狙いがある。「自社と外部を組み合わせる」のがハイブリッド、「外部を複数使う」のがマルチ、と区別すればよい。仮想化の有無や事業者の所在国は、この区別とは関係がない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問15|移行方式

既存の業務システムを、アプリケーションの構造を変えずにクラウドの仮想サーバへ載せ替えるリフトアンドシフトの特徴として、適切なものはどれか。

  1. 移行後は、需要に応じた自動的な資源の増減が自然に働くようになる
  2. 移行にあたってアプリケーションの再設計が必要になるため、期間と費用が最も大きい
  3. 短期間で移行できる一方、弾力性や運用自動化といったクラウドの利点は限定的にしか得られない
  4. オンプレミスに比べて必ず総費用が下がるため、費用対効果の検討は不要である
正解と解説
正解:C. 短期間で移行できる一方、弾力性や運用自動化といったクラウドの利点は限定的にしか得られない

リフトアンドシフトは、既存の構成をほぼそのまま仮想サーバへ載せ替える方式で、短期間かつ低リスクで移行できるのが利点である。ただし、資源を自動で増減させる仕組みも、マネージドサービスによる運用の省力化も、アプリケーション側が対応していなければ働かないので、クラウドの利点は限定的にしか得られない。再設計を伴い期間と費用が大きいのはリファクタリング方式である。費用は構成と利用期間によって上下するので、必ず下がるとは言えず、検討は必要である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問16|SOA

SOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方として、適切なものはどれか。

  1. 業務機能を独立したサービスとして定義し、それらを組み合わせてシステムを構成する
  2. 処理性能を上げるため、複数の業務機能を1つの実行単位にまとめて配置する
  3. 画面とデータベースを1対1に対応させ、画面ごとに専用のテーブルを設ける
  4. 利用者ごとに専用のアプリケーションを開発し、共通機能を持たせない
正解と解説
正解:A. 業務機能を独立したサービスとして定義し、それらを組み合わせてシステムを構成する

SOAは、業務機能を独立して再利用できるサービスとして定義し、それらを組み合わせることでシステムを構成する設計思想である。業務が変わったときに、部品を作り直すのではなく組み合わせを変えることで追随できることを狙う。複数機能を1つにまとめる、画面ごとに専用テーブルを設ける、共通機能を持たせないという方針は、いずれも再利用性と疎結合という狙いに反しており、SOAの説明にはならない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問17|分割の代償

モノリシックな構成からマイクロサービスアーキテクチャへ移行する際に、あらかじめ想定すべき代償として最も適切なものはどれか。

  1. サービスごとに別の技術を選べなくなり、技術選択の自由度が下がること
  2. サービス単位で個別に配備できなくなり、リリースの頻度が下がること
  3. 各サービスの実装量が増え、全体のソースコード行数が必ず削減できなくなること
  4. サービス間の通信遅延、分散したデータの整合、障害箇所の特定の難しさという運用負担が増えること
正解と解説
正解:D. サービス間の通信遅延、分散したデータの整合、障害箇所の特定の難しさという運用負担が増えること

マイクロサービスは、小さく独立したサービスに分けて個別に開発・配備できるようにする方式で、技術選択の自由度もリリースの独立性も上がる。したがってそれらが下がるという記述は誤りである。代償として現れるのは運用側の負担で、ネットワーク越しの呼出しによる遅延、サービスごとに分かれたデータの整合性確保、そして障害がどのサービスで起きているのかの特定の難しさが挙げられる。分散トレーシングや監視の仕組みへの投資が前提になる点が、採用可否の判断材料になる。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問18|REST

RESTスタイルのWeb APIの設計として、適切なものはどれか。

  1. すべての操作を1つのURIに集約し、リクエストの本文に操作名を入れて区別する
  2. URIでリソースを表し、取得や登録などの操作はHTTPメソッドで区別する
  3. サーバ側で利用者ごとの操作履歴を保持し、次の要求はその履歴を前提として解釈する
  4. URIに操作名を含め、getOrderやdeleteOrderのように動詞で命名する
正解と解説
正解:B. URIでリソースを表し、取得や登録などの操作はHTTPメソッドで区別する

RESTでは、URIは操作ではなくリソースを表し、そのリソースに対する取得・登録・置換・削除をGET・POST・PUT・DELETEといったHTTPメソッドで区別する。また、要求ごとに必要な情報を含めてサーバ側に状態を持たせない設計にすることで、台数を増やすだけで処理能力を伸ばせる。1つのURIに集約して本文で操作を区別する設計、URIに動詞を含める設計はRESTの考え方から外れ、サーバに操作履歴を持たせる設計は状態を持たないという原則に反する。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問19|TCO比較

オンプレミス案は初期費用4800万円と年間運用費900万円、クラウド案は初期費用600万円と年間利用料1800万円である。5年間使用する前提で総額を比べたとき、正しいものはどれか。

  1. オンプレミス案が300万円安い
  2. クラウド案が300万円安い
  3. オンプレミス案が4200万円高い
  4. クラウド案が600万円安い
正解と解説
正解:A. オンプレミス案が300万円安い

オンプレミス案は 4800 + 900 * 5 = 9300万円、クラウド案は 600 + 1800 * 5 = 9600万円なので、オンプレミス案が300万円安い。4200万円は初期費用の差 4800-600 だけを見た値で、年間費用の差を無視している。600万円安いのは4年間で比べた場合の値で、4年時点ではオンプレミス8400万円に対しクラウド7800万円とクラウドが安く、5年目で逆転する。つまり何年使うかを決めないと優劣は決まらない、というのがTCOで比較するときの要点である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問20|ロックイン

クラウド事業者固有のマネージドサービスを深く使い込んだ結果として生じるベンダロックインへの対策として、最も適切なものはどれか。

  1. 利用する事業者との契約期間をできるだけ長期に設定し、料金の値上げを契約によって抑え込んでおく
  2. 事業者固有の機能に依存する箇所を限定し、標準的な技術やインタフェースで置き換えられる設計にしておく
  3. データのバックアップを、同じ事業者の別のリージョンにも保存しておき、障害のときに切り替えられるようにする
  4. 利用する事業者固有のサービスの数を増やして機能を分散させ、一つの機能への依存を薄めておく
正解と解説
正解:B. 事業者固有の機能に依存する箇所を限定し、標準的な技術やインタフェースで置き換えられる設計にしておく

ベンダロックインは、特定事業者に固有の機能へ依存した結果、他へ移す費用が大きくなり実質的に離れられなくなる状態を指す。対策の中心は依存箇所を局所化することで、業務ロジックを事業者固有のサービスに直接結び付けず、抽象化した層を挟んで置き換え可能にしておく。契約期間の長期化はむしろ拘束を強める。同じ事業者の別リージョンへのバックアップは可用性対策であって、その事業者から離れられるようにはならない。利用サービスを増やせば依存はさらに深まる。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問21|企画の順

システム化構想の立案とシステム化計画の立案の関係として、適切なものはどれか。

  1. システム化計画で対象業務と目的を定め、システム化構想で詳細な機能要件を確定する
  2. システム化構想で開発ベンダーを決定し、システム化計画で契約形態を決定する
  3. 両者は同じ活動を指し、呼び方が違うだけである
  4. システム化構想で対象業務と目的、期待効果を描き、システム化計画で範囲・体制・概算費用・投資対効果を具体化する
正解と解説
正解:D. システム化構想で対象業務と目的、期待効果を描き、システム化計画で範囲・体制・概算費用・投資対効果を具体化する

順序は構想が先で計画が後である。システム化構想の立案では、経営課題からシステム化の対象業務と目的、期待する効果、大まかな全体像を描く。システム化計画の立案では、それを受けて対象範囲・開発方式・体制・概算費用・スケジュール・投資対効果・リスクを具体化し、投資の可否を経営が判断できる材料にする。機能要件を確定するのはこの後の要件定義であり、ベンダー決定と契約は調達の段階である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問22|RFIとRFP

RFI(情報提供依頼書)とRFP(提案依頼書)の使い分けとして、適切なものはどれか。

  1. RFIで正式な提案と見積りを求め、RFPで契約条件を交渉する
  2. RFIで市場や事業者の情報を収集し、RFPで要件と評価基準を示して正式な提案を求める
  3. RFIは既存の取引先だけに送り、RFPは新規の事業者だけに送る
  4. RFIは価格だけを尋ね、RFPは技術だけを尋ねる
正解と解説
正解:B. RFIで市場や事業者の情報を収集し、RFPで要件と評価基準を示して正式な提案を求める

RFIは調達の入口で、市場にどんな製品や技術があり、どの事業者が対応できそうかという情報を集める段階の文書である。この段階ではまだ提案を求めない。RFPは、背景と目的、要件、前提と制約、提案範囲、契約条件、そして評価基準とスケジュールを示して、正式に提案を求める文書である。順序を逆にした記述、送付先で使い分けるという記述、価格と技術で分けるという記述は、いずれも誤りである。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問23|提案評価

複数のベンダーから受け取った提案書を評価するときの進め方として、最も適切なものはどれか。

  1. 提案書を受け取ってから、提出された内容を見比べたうえで評価項目と重み付けを決め、その基準にしたがって順位を付ける
  2. 提案金額が最も低いものを選び、要件をどこまで満たしているかは契約後に個別に協議して決める
  3. 評価基準と重み付けをRFP提示の時点で確定させ、金額に加えて実現性・体制・実績・保守条件を含めて総合評価する
  4. 評価の途中で各ベンダーと個別に面談し、他社の提案内容と金額を伝えて条件のよい再提案を促す
正解と解説
正解:C. 評価基準と重み付けをRFP提示の時点で確定させ、金額に加えて実現性・体制・実績・保守条件を含めて総合評価する

評価基準と重み付けは、提案を受け取る前、すなわちRFPを提示する時点で確定させておく。そうしないと、出てきた提案に合わせて基準を作ることになり、公正さを失ううえ、ベンダー側も何を重視して提案すべきか分からない。評価は金額だけでなく、技術的な実現性、体制、実績、保守の条件を含めた総合評価にするのが通例で、金額だけで選ぶと実現性の低い安値提案を掴む危険がある。評価に関わる者が提案者と個別に接触したり、他社の提案内容を伝えたりすることは、公正性を損なうため避ける。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問24|非機能

非機能要件に分類されるものはどれか。

  1. 障害が発生してから4時間以内にサービスを復旧できること
  2. 受注登録画面から、商品コードと数量を入力して受注を登録できること
  3. 月次で、部門別の売上集計表を出力できること
  4. 承認者が却下した申請を、申請者に差し戻せること
正解と解説
正解:A. 障害が発生してから4時間以内にサービスを復旧できること

非機能要件は、性能、可用性、拡張性、運用保守性、移行性、セキュリティ、システム環境といった、機能以外の品質と制約に関する要求である。復旧までの時間の目標は可用性に関する要求なので非機能要件にあたる。受注の登録、集計表の出力、申請の差戻しは、いずれもシステムが何をするかという振る舞いの要求であり機能要件である。非機能要件は曖昧なまま契約すると後の紛争の種になるため、測れる形で書き、IPAの非機能要求グレードのような枠組みで水準をそろえて合意する。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問25|請負

請負契約における受注者の義務に関する記述として、適切なものはどれか。

  1. 善良な管理者の注意をもって作業を行えば、成果物が完成しなくても報酬を請求できる
  2. 発注者の指揮命令に従って作業を行う義務を負い、成果物に対する責任は発注者が負う
  3. 作業に投入した工数に応じて報酬が支払われ、完成の有無は報酬に影響しない
  4. 仕事を完成させる義務を負い、その結果に対して報酬が支払われる
正解と解説
正解:D. 仕事を完成させる義務を負い、その結果に対して報酬が支払われる

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約である。したがって受注者は完成義務を負い、報酬は仕事の結果に対して支払われる。善管注意義務を負うのは準委任の受任者であり、請負とは義務の性質が異なる。発注者の指揮命令に従うのは労働者派遣や雇用の形であって、請負でこれを行うと偽装請負となる。投入工数に応じて支払う形は、履行割合型の準委任の考え方である。

根拠:民法 第632条

問26|準委任

システム開発の役務提供が準委任契約とされる理由として、適切なものはどれか。

  1. 成果物を一切作らない契約だからである
  2. 委託する事務が法律行為ではないため、委任の規定が準用されるからである
  3. 報酬を支払わない契約だからである
  4. 発注者が受注者の要員に直接指揮命令できる契約だからである
正解と解説
正解:B. 委託する事務が法律行為ではないため、委任の規定が準用されるからである

民法の委任は、法律行為をすることを相手方に委託して承諾を得る契約である。これに対し、法律行為でない事務の委託については委任の規定が準用され、これを準委任という。システム開発の役務提供は法律行為ではないので準委任にあたる。成果物を作らないという意味ではなく、成果に対して報酬を支払う成果完成型の準委任も認められている。報酬を支払わないわけでもない。発注者が受注者の要員へ直接指揮命令すれば、契約の名目にかかわらず実態は労働者派遣とみなされる。

根拠:民法 第656条

問27|多段階契約

情報システム開発で多段階契約を採り、工程ごとに契約形態を選び分ける。工程と契約形態の組合せとして最も適切なものはどれか。

  1. 要件定義を請負、内部設計から製造を準委任とする
  2. 全工程を一括の準委任とし、完成の判定は行わない
  3. 要件定義を準委任、内部設計から製造を請負とする
  4. 全工程を一括の請負とし、要件は契約後に確定させる
正解と解説
正解:C. 要件定義を準委任、内部設計から製造を請負とする

工程の性質に応じて契約形態を選ぶのが多段階契約の考え方である。要件定義は、発注者と受注者が一緒に内容を固めていく工程で、契約時点では何をもって完成とするかを特定できないため準委任が適する。内部設計から製造は、要件が確定していて成果物を特定でき、完成を判定できるので請負が適する。要件が未確定のまま請負にすると、完成義務だけが生じて範囲を巡る争いになる。全工程を一括で請け負う形も、要件を契約後に確定させる前提では同じ問題を抱える。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問28|不適合

請負契約で引き渡された成果物に、種類または品質に関して契約の内容に適合しない点があった。注文者が追完請求や損害賠償請求などを行うための期間の制限として、正しいものはどれか。

  1. 不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人へ通知すること
  2. 引渡しの日から3か月以内に請負人へ通知すること
  3. 不適合を知った時から10年以内であれば、通知は不要であること
  4. 検収印を押した時点で、以後は一切の請求ができなくなること
正解と解説
正解:A. 不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人へ通知すること

民法では、請負人が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合、注文者がその不適合を知った時から1年以内に通知しないと、履行の追完請求、報酬の減額請求、損害賠償請求、契約の解除ができなくなると定めている。起算点が「引渡し」ではなく「不適合を知った時」である点が要点になる。なお、引渡し時に請負人がその不適合を知っていたか、重大な過失によって知らなかったときは、この期間制限は適用されない。検収によって一切の請求ができなくなるわけでもない。

根拠:民法 第637条

問29|偽装請負

請負契約で開発を委託しているが、発注者側の担当者が受注者の要員に対して、日々の作業指示や勤務時間の管理を直接行っている。この状態の問題点として、最も適切なものはどれか。

  1. 請負契約であっても発注者が直接に作業指示を出した以上、受注者が成果物の完成義務を負わなくなること
  2. 契約の名目にかかわらず実態が労働者派遣とみなされ、労働者派遣法の規制に触れるおそれがあること
  3. 発注者が受注者の要員を直接管理しているため、成果物の検収を発注者が行えなくなること
  4. 受注者が業務の一部を他社へ再委託することが、発注者の承諾があっても行えなくなること
正解と解説
正解:B. 契約の名目にかかわらず実態が労働者派遣とみなされ、労働者派遣法の規制に触れるおそれがあること

請負や準委任では、受注者が自らの裁量と責任で業務を遂行し、要員への指揮命令は受注者が行う。発注者が受注者の要員へ直接、作業指示や勤務管理を行うと、契約の名目が何であれ実態は労働者の派遣にあたると評価され、いわゆる偽装請負として労働者派遣法上の問題が生じる。発注者が伝えるべきことは、受注者の管理責任者を通じた要求や仕様の連絡であって、個々の要員への指示ではない。完成義務や検収、再委託の可否は、この問題とは別の論点である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問30|要求水準

非機能要件について、発注側と受注側が同じ物差しで水準を合意するために用いる枠組みはどれか。

  1. 共通フレーム
  2. ファンクションポイント法
  3. CMMI
  4. 非機能要求グレード
正解と解説
正解:D. 非機能要求グレード

非機能要求グレードは、可用性、性能拡張性、運用保守性、移行性、セキュリティ、システム環境とエコロジーという観点ごとに、達成すべき水準を段階で示し、発注側と受注側が選びながら合意していくための枠組みである。共通フレームは、企画から保守までの作業内容と用語を共通化した規範で、水準の段階表ではない。ファンクションポイント法は規模の見積手法、CMMIは組織のプロセス成熟度を段階で評価するモデルであり、いずれも非機能要件の水準合意には用いない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問31|回収期間

投資回収期間法の弱点として、適切なものはどれか。

  1. 回収し終えた後に生じる効果と、お金の時間価値を考慮しない
  2. 初期投資の額が分からないと計算できない
  3. 毎年の効果額が一定でないと計算できない
  4. 投資額が大きい案件ほど、必ず回収期間が短く算出される
正解と解説
正解:A. 回収し終えた後に生じる効果と、お金の時間価値を考慮しない

投資回収期間法は、初期投資を毎年の効果額で回収し終えるまでの年数を求める方法である。分かりやすくリスクの目安になる一方、回収後に効果が10年続くのか1年で終わるのかを区別できず、将来の金額を割り引かないので時間価値も反映しない。毎年の効果額が一定でなくても、累計が初期投資に達する時点を求めれば計算できる。初期投資額が必要なのはどの評価手法でも同じで、弱点とは言えない。投資額が大きいほど回収が早くなるという関係もない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問32|回収年数

初期投資が3000万円で、効果額が1年目800万円、2年目900万円、3年目1000万円、4年目1100万円、5年目1200万円と見込まれる。投資回収期間はおよそ何年か。

  1. 約2.7年
  2. 約3.0年
  3. 約3.3年
  4. 約4.0年
正解と解説
正解:C. 約3.3年

累計の効果額は1年目800万円、2年目1700万円、3年目2700万円で、3年時点ではまだ300万円足りない。4年目の効果額1100万円のうち300万円ぶんで回収し終えるので、3 + 300/1100 = 約3.3年となる。約2.7年は 3000/1100 として4年目の効果額だけで割った誤り。約3.0年は5年間の効果額の平均1000万円で 3000/1000 と計算した誤りで、実際には初期の効果額が平均より小さいので回収はもっと遅れる。約4.0年は回収が4年目に入ることから年単位で切り上げた値である。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問33|ROI

投資額2000万円のシステムについて、年間の効果額が900万円、そのシステムの年間運用費が300万円と見込まれる。年間のROIはいくらか。

  1. 45%
  2. 30%
  3. 26%
  4. 15%
正解と解説
正解:B. 30%

ROIは利益を投資額で割って求める。ここでの年間利益は、効果額900万円から運用費300万円を引いた600万円である。したがって 600/2000 = 0.30 で30%となる。45%は 900/2000 として運用費を引き忘れた誤り。26%は 600/2300 として、投資額に運用費まで足してしまった誤り。15%は 300/2000 として運用費を利益と取り違えた誤りである。ROIの分子は効果額ではなく利益だという点が要点になる。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問34|NPV

初期投資2000万円で、1年後から3年間にわたって毎年900万円の効果が見込まれる案がある。割引率を10%とするとき、NPVはおよそいくらか。

  1. 約700万円
  2. 約2238万円
  3. 約29万円
  4. 約238万円
正解と解説
正解:D. 約238万円

各年の効果額を現在価値に直すと、1年後が 900/1.1 = 818.18万円、2年後が 900/1.1² = 743.80万円、3年後が 900/1.1³ = 676.18万円で、合計は2238.17万円。ここから初期投資2000万円を引いたNPVは約238万円である。約700万円は 900 * 3 - 2000 として割引を行わなかった値、約2238万円は現在価値の合計から初期投資を引き忘れた値、約29万円は 2700/1.1³ - 2000 として3年ぶんの合計額をまとめて3年後の金額として割り引いた誤りである。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問35|TCO

TCO(総所有コスト)で複数案を比較するときに、必ず前提として決めておく必要があるものはどれか。

  1. 何年間使用するかという想定利用年数
  2. 開発を担当するベンダーの企業規模
  3. システムを利用する部門の人数
  4. 採用するプログラミング言語
正解と解説
正解:A. 何年間使用するかという想定利用年数

TCOは、導入時のイニシャルコストと、稼働後に毎年かかるランニングコストを合計した総額である。初期投資が大きく年間費用が小さい案と、初期投資がなく年間費用が大きい案は、どこかの年で総額が並ぶので、何年使うかを決めなければ優劣が決まらない。クラウドとオンプレミスの比較がまさにこの構図になる。ベンダーの規模、利用部門の人数、採用言語は、費用の内訳に影響することはあっても、比較の前提として必ず決めるべきものではない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問36|IRR

IRR(内部収益率)の説明として、適切なものはどれか。

  1. 初期投資を毎年の効果額で回収し終えるまでの年数
  2. 投資額に対して得られた年間利益の割合
  3. NPVがちょうど0になる割引率
  4. 将来の効果額を現在価値に直した合計から初期投資を引いた金額
正解と解説
正解:C. NPVがちょうど0になる割引率

IRRは、投資案のNPVがちょうど0になる割引率のことで、この率が資本コストを上回るかどうかで投資の可否を判断する。率で示されるので規模の異なる案の比較に使いやすい一方、投資額の大小が見えず、キャッシュフローの符号が複数回変わる場合には解が複数生じることがある。回収し終えるまでの年数は投資回収期間、投資額に対する利益の割合はROI、現在価値の合計から初期投資を引いた金額はNPVそのものである。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類18:システム企画

問37|エッジ

多数のセンサを設置したIoTシステムで、エッジコンピューティングを併用する主な理由として、適切なものはどれか。

  1. センサの設置台数を物理的に増やせるようにするため
  2. センサが取得するデータの精度そのものを高めるため
  3. クラウド側のストレージ料金を、事業者が自動的に割り引くため
  4. 現場側で一次処理を行い、クラウドへ送る通信量と応答の遅延を抑えるため
正解と解説
正解:D. 現場側で一次処理を行い、クラウドへ送る通信量と応答の遅延を抑えるため

すべての生データをクラウドへ送ると、通信量と通信費が膨らみ、往復にかかる時間のぶん応答も遅くなる。エッジコンピューティングは、現場に近い機器側でフィルタリングや集約、異常判定といった一次処理を行い、必要なデータだけをクラウドへ送る方式である。これにより通信量と遅延を抑えられ、現場での即時判断も可能になる。設置台数の上限、センサの測定精度、事業者の料金体系は、エッジ処理を入れる理由にはならない。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問38|AI適性

機械学習の適用に向いていない業務として、最も適切なものはどれか。

  1. 過去の販売実績から、来月の商品別の需要を予測する
  2. 過去に前例のない制度変更について、判断の根拠を条文と対応づけて提示する
  3. 大量の商品画像から、不良品の可能性がある画像を選び出す
  4. 問合せメールの本文から、担当部署を自動で振り分ける
正解と解説
正解:B. 過去に前例のない制度変更について、判断の根拠を条文と対応づけて提示する

機械学習は、過去のデータと結果の対応が大量にある領域や、人手では処理量が追いつかない画像や文書の分類に向く。需要予測、不良品の画像選別、メールの自動振り分けはいずれもこれにあたる。逆に苦手なのは、学習すべき前例がない事象、そして判断の根拠を明示する必要がある領域である。前例のない制度変更について条文と対応づけた根拠を示す業務は、その両方に該当する。学習データの偏りが出力の偏りとして現れることや、説明可能性が求められる場面があることも、適用可否の判断材料になる。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問39|AI運用

AIによる与信判定を業務に組み込むにあたり、設計上の考慮として最も適切なものはどれか。

  1. 判定の正解率が一定水準を超えていれば、判定結果をそのまま最終決定としてよい
  2. 学習データは過去の実績をそのまま使えばよく、偏りの確認は不要である
  3. 判定の根拠を提示できるようにし、最終的な判断と責任は人が担う設計にする
  4. 誤判定を減らすため、学習後はモデルを更新せずに固定して運用する
正解と解説
正解:C. 判定の根拠を提示できるようにし、最終的な判断と責任は人が担う設計にする

与信判定は、対象者に不利益が及ぶ判断であり、なぜその結論になったのかの説明を求められる領域である。したがって、根拠を提示できるようにしたうえで、最終的な判断と責任は人が担う設計にするのが基本になる。正解率が高くても、個別の判定が説明できなければ運用できない。学習データが過去の偏りを含んでいれば、その偏りがそのまま判定に再生産されるので、偏りの確認は欠かせない。また、市場や利用者層は変わるので、モデルを固定すると時間とともに精度が劣化する。定期的な再学習と監視を前提に設計する。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

問40|データ基盤

データウェアハウスとデータレイクの違いとして、適切なものはどれか。

  1. データウェアハウスは用途を決めて構造化してから蓄積し、データレイクは形式を問わず生データのまま蓄積する
  2. データウェアハウスは生データをそのまま蓄積し、データレイクは集計後の値だけを蓄積する
  3. データウェアハウスは分析に用い、データレイクは基幹業務の日々の更新処理に用いる
  4. データウェアハウスは社内データのみ、データレイクは社外データのみを対象とする
正解と解説
正解:A. データウェアハウスは用途を決めて構造化してから蓄積し、データレイクは形式を問わず生データのまま蓄積する

データウェアハウスは、分析という用途を想定して構造を定め、整理・変換したうえで時系列に蓄積する分析基盤である。データレイクは、構造化データも文書や画像などの非構造化データも、形式を問わず生のまま溜めておく置き場で、後から使い道を決められるのが利点になる。用途別に切り出した小規模なものがデータマートである。両者を逆にした説明、データレイクを基幹業務の更新処理に使うという説明、社内と社外で分けるという説明は、いずれも誤りである。

根拠:IPA「応用情報技術者試験(レベル3)」シラバス Ver.7.2 大分類7:システム戦略 中分類17:システム戦略

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※ 解説は学習用の情報提供です。最新の出題範囲・制度は必ずIPAの公式発表をご確認ください。
※ 出題はIPA公開のシラバスに沿った仮の宿 学習室のオリジナル問題です。計算問題はすべて機械検算ずみ。試験制度・実施要項はIPAの公式発表をご確認ください(2027年度春ごろに新試験制度へ移行予定)。