仮の宿 学習室

クラウド・AI・Python CLOUD / AI / PYTHON

AIの社会実装と法律・倫理

講義 3 本・確認問題 30 問 | 本試験では「G検定」(0問)の一部 | 最終更新 2026-09-24

この章で学ぶこと
目次
  1. AIプロジェクトの進め方とデータの扱い
  2. AIをめぐる法律と契約
  3. AI倫理とAIガバナンス
  4. 確認問題(30問)
  5. 演習ツール

1. AIプロジェクトの進め方とデータの扱い

AIを企画から運用まで運ぶ道筋を、CRISP-DM・PoC・MLOps という3つの言葉で押さえます。学習データを集めるときの落とし穴も一緒に見ます。

AIプロジェクトは、モデルを作るところから始まりません。まず「誰のどんな困りごとを、どうなったら解けたと言えるのか」を決めるところから始まります。シラバスの中項目35でも、キーワードの筆頭に「AIのビジネス活用」と「ステークホルダーのニーズ」が並んでいます。ここを飛ばして精度の高いモデルを作っても、現場が本当に困っていたのは別のところだった、ということが起こります。ステークホルダーとは、経営層・現場の担当者・情報システム部門・顧客・規制当局など、そのAIの影響を受ける関係者すべてを指します。関係者ごとに「成功」の定義が違うので、着手前に目標と評価の物差しをそろえておく必要があります。

AIを入れれば業務がよくなる、とは限りません。今の業務手順をそのまま残したままAIを載せると、AIの出した答えを人が手作業で転記する工程が新たに増えるだけ、ということが実際に起こります。そこで出てくるのがBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)です。BPRは、既存の業務プロセスを部分的に改善するのではなく、目的にさかのぼって業務の流れそのものを設計し直す考え方です。AI導入で効果が出るかどうかは、モデルの精度よりも、業務プロセスを組み替えられたかどうかで決まる場面が少なくありません。

データ分析プロジェクトの標準的な進め方として、シラバスはCRISP-DMを挙げています。CRISP-DMは、ビジネス理解・データ理解・データ準備・モデリング・評価・展開という6つの段階からなります。大事なのは、この6つが一方向に流れるだけではなく、前の段階へ戻りながら反復する円環として描かれている点です。データを見て初めて課題設定の甘さに気づく、評価してみて特徴量の作り直しが要ると分かる、ということが普通に起こるからです。機械学習の本番運用まで含めて品質保証の観点を足したものがCRISP-ML(Q)で、シラバスにはCRISP-MLとして載っています。

本格的な開発に入る前に、小さく作って確かめる工程をPoC(Proof of Concept、概念実証)と呼びます。PoCの目的は完成品を作ることではなく、「そもそもこのデータでこの精度は出るのか」「出たとして業務は回るのか」を、少ない投資で判断することです。したがってPoCには、始める前に「どの数字がどこまで届いたら次へ進む、届かなければやめる」という撤退の基準を置いておく必要があります。これがないと、成果の出ないPoCを延々と繰り返すことになります。

開発の進め方には、要件定義から順に工程を固めて後戻りしないウォーターフォールと、短い期間で作って試すことを繰り返すアジャイルがあります。AI開発は、やってみないと精度が分からないという性質を持つため、要件と成果物を先に固定するウォーターフォールとは相性がよくありません。実務では、探索とPoCの部分を反復的に進め、精度が見通せてから本開発の工程を固める、という組み合わせが取られます。この「精度を事前に約束できない」という性質は、後の講義で扱う開発委託契約の型にも直接効いてきます。

道具の側も押さえておきます。開発言語はPythonが事実上の標準で、試行錯誤の記録にはコードと実行結果と説明を1つの文書にまとめられるJupyter Notebookが使われます。ライブラリの版までそろえた実行環境をそのまま持ち運びたいときはDockerでコンテナにします。同じコンテナを開発機でも本番でも動かせるので、「自分の環境では動いたのに」という食い違いが減ります。計算資源はクラウドから必要な分だけ借り、学習済みモデルは Web API として公開して、他システムからHTTPで呼び出せる形にするのが一般的です。

作って終わりではありません。運用に入ると、世の中が変わって入力データの傾向が学習時とずれていき、精度が静かに落ちていきます。これを見張り、必要なら学習データを更新して作り直し、また配置する、という循環を仕組みとして回す考え方がMLOpsです。監視の対象はサーバーの死活だけではなく、入力データの分布、予測の分布、業務指標まで含みます。誰がいつどのデータでどのモデルを作ったかを記録しておくことも、MLOpsが担う仕事です。

体制も論点です。データサイエンティストは、統計や機械学習の知識に加え、業務の理解とデータ基盤の扱いを併せ持つ職種として位置づけられます。ただし1社ですべての知見をそろえるのは難しいので、シラバスは「産学連携」「他企業や他業種との連携」「オープン・イノベーション」を並べています。オープン・イノベーションは、自社内の研究開発だけに閉じず、外部の技術・知識・人材を積極的に取り込んで価値を生む考え方です。産学連携は大学など研究機関との共同研究、他業種との連携は自社にないデータや販路を持つ相手との組み合わせを指します。

最後にデータです。教師あり学習に必要な正解ラベルを人手で付ける作業をアノテーションと呼びます。ラベルの付け方の基準が作業者ごとにぶれると、モデルの上限がそこで決まってしまうので、作業指示書と品質チェックの設計が要になります。ゼロから集める代わりに、公開されているオープンデータセットや、言語処理向けに大量の文章を集めて整理したコーパスを使う手もあります。ただし、どのデータにもライセンスと利用規約が付いているので、商用利用や再配布の可否を必ず確認します。

データの扱いでとくに怖いのがデータリーケージです。これは、予測時点では本来手に入らないはずの情報が学習データに混ざり込み、検証時の精度が実力よりずっと高く出てしまう現象です。解約予測に「解約手続きの受付日」を特徴量として入れてしまう、前処理の平均や標準偏差を検証データも含めた全体から計算してしまう、時系列データを時間を無視してランダムに分割してしまう、といった形で起こります。過学習は「訓練データに合わせすぎる」ことが原因ですが、データリーケージは「そもそも使ってはいけない情報を使っている」ことが原因で、両者は別物です。検証の数字が不自然に良いときは、まずリーケージを疑います。

CRISP-DM の6段階と、それぞれで決めること
順序段階その段階で決めること
1ビジネス理解解くべき業務課題、成功の基準、制約と体制
2データ理解使えるデータの所在、品質、分布、不足しているもの
3データ準備欠損や外れ値の処理、特徴量の作成、学習用と検証用の分割
4モデリング手法の選択、ハイパーパラメータの調整、学習の実施
5評価業務目標に照らした達成度、次へ進むか前へ戻るかの判断
6展開業務システムへの組み込み、運用と監視の設計、引き継ぎ
import requests url = "https://example.com/v1/predict"payload = {"text": "this product works well"}res = requests.post(url, json=payload, timeout=10)print(res.status_code)print(res.json())

用語

ステークホルダーのニーズ
経営層・現場・情報システム部門・顧客など、そのAIの影響を受ける関係者それぞれが求めるもの。着手前に目標と評価の物差しをそろえる対象。
BPR
ビジネスプロセス・リエンジニアリング。既存の業務手順を部分改善するのではなく、目的にさかのぼって業務の流れ自体を設計し直す取り組み。
CRISP-DM
データ分析プロジェクトの標準プロセスモデル。ビジネス理解・データ理解・データ準備・モデリング・評価・展開の6段階を反復する。
CRISP-ML
CRISP-DMを機械学習の本番運用まで広げ、各段階に品質保証の観点を加えたプロセスモデル。CRISP-ML(Q)とも書かれる。
PoC
概念実証。本格開発の前に小規模に試して、実現可能性と効果を確かめる工程。始める前に次へ進む条件と撤退の条件を決めておく。
ウォーターフォール
要件定義から順に工程を固め、後戻りしないことを前提に進める開発の進め方。成果物と要件を先に確定できる案件に向く。
アジャイル
短い期間で作って試すことを繰り返す開発の進め方。やってみないと精度が分からないAI開発の探索段階と相性がよい。
Python
AI開発で事実上の標準となっている言語。機械学習やデータ処理のライブラリが充実している。シラバスの中項目35のキーワード。
Jupyter Notebook
コードと実行結果と説明文を1つの文書にまとめて残せる対話的な開発環境。試行錯誤の過程を記録しながら分析を進められる。
Docker
アプリケーションとライブラリを含む実行環境をコンテナとしてまとめる技術。開発機と本番で同じ環境を再現できる。
Web API
学習済みモデルの機能を、HTTP経由で他システムから呼び出せる形で公開する仕組み。利用側はモデルの中身を知らずに使える。
MLOps
機械学習モデルの配置・監視・再学習・再配置を継続的に回す運用の考え方。入力データや予測の分布の変化も監視の対象にする。
データサイエンティスト
統計や機械学習の知識に加え、業務の理解とデータ基盤の扱いを併せ持つ職種。シラバスの中項目35のキーワード。
オープン・イノベーション
自社内の研究開発に閉じず、外部の技術・知識・人材を取り込んで価値を生む考え方。産学連携や他業種との連携がその手段になる。
アノテーション
生のデータに正解ラベルや領域情報を人手で付ける作業。基準のぶれがそのままモデルの性能の上限になるため、指示書と品質管理が要る。
オープンデータセット
研究や開発のために公開されているデータの集まり。利用にはライセンスと利用規約の確認が必要で、商用利用の可否は個別に異なる。
コーパス
自然言語処理のために集められ、整理された大量の文章データ。用途に応じて品詞や構文の情報が付与されていることもある。
データリーケージ
予測時点では手に入らないはずの情報が学習データに混入し、検証時の精度が実力より高く出てしまう現象。原因は過学習とは異なる。

例題

例題:工場の検査工程にAIを入れたい、という相談を受けた。現場の担当者は「不良品の見落としを減らしたい」と言い、経営層は「検査にかける人手を半分にしたい」と言っている。着手前に何をすべきか。
答えと考え方 この2つは同じ目標ではない。見落としを減らしたいなら、疑わしいものを広めに拾う設定にして再検査を増やすことになり、人手はむしろ増える。人手を半分にしたいなら、明らかに良品のものを自動で通して人の確認を減らすことになり、見落としの許容量を先に決める必要がある。ステークホルダーのニーズが食い違ったまま進めると、完成後にどちらからも「求めていたものと違う」と言われる。着手前にやるべきことは、両者を同席させて、許容できる見落とし率と、削減したい工数の目標値を1つの表に書き出し、優先順位を合意することである。CRISP-DMでいえばビジネス理解の段階にあたり、ここで決めた基準がそのまま評価段階の判定条件になる。加えて、検査工程そのものを組み替えられるかも確認する。AIの判定結果を人が紙に転記するような工程が残ると、削減効果は出ない。これがBPRの視点である。
例題:研究部門のノートPC上で動いている学習済みモデルを、社内の別部署の業務システムから使えるようにしたい。どういう形で渡すのがよいか。
答えと考え方 モデルのファイルとスクリプトをそのまま渡す方法は、受け取る側にPythonの環境構築とライブラリの版合わせを強いることになり、動かないという問い合わせが続く。よく取られるのは、推論処理をWeb APIとして公開し、利用側はHTTPで入力を送って結果を受け取るだけにする形である。利用側はモデルの中身も実行環境も知らなくてよく、モデルを差し替えても呼び出し方は変わらない。実行環境はDockerのコンテナにまとめてクラウド上で動かせば、負荷に応じて台数を増やせるうえ、開発機と本番で同じ環境を再現できる。あわせて、入力と出力を記録して分布の変化を見張る仕組みを最初から入れておく。これがMLOpsの入り口になる。

出典・根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方/一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 36. データの収集・加工・分析・学習

2. AIをめぐる法律と契約

個人情報・著作権・特許・営業秘密、そして開発を外部に頼むときの契約。AIを世に出すまでに必ず通る法律の関門を、制度の建て付けから押さえます。

個人情報保護法は、生存する個人に関する情報の取り扱いのルールを定めた法律です。まず用語の三段階を押さえます。個人情報は、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるものです。個人データは、その個人情報を検索できるように体系的に整理したもの(個人情報データベース等)を構成する個人情報です。保有個人データは、事業者が開示や訂正、利用停止などに応じる権限を持つ個人データです。義務の重さはこの順に増えていくので、手元のデータがどこに当たるかで、できること・しなければならないことが変わります。

「氏名が入っていなければ個人情報ではない」というのは誤りです。個人識別符号という区分があり、指紋データや顔認識データ、DNAの塩基配列を変換した符号のような身体的特徴のデータや、マイナンバー、旅券番号、運転免許証番号のような個人に割り当てられた番号は、それ単体で個人情報になります。また、人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪の経歴・犯罪被害の事実など、不当な差別や偏見が生じうる情報は要配慮個人情報とされ、取得の場面から原則として本人の同意が要ります。

個人情報を扱うときは、利用目的をできる限り特定し、あらかじめ公表するか本人に通知しなければなりません。学習に使うつもりなら、そのことが利用目的の範囲に収まっているかを確認します。個人データを第三者に渡すときは、原則として本人の同意が必要です。ここで区別が要るのが委託です。利用目的の達成に必要な範囲で取り扱いを外部に委ねる委託は第三者提供に当たらず、本人同意なしに行えますが、その代わり委託元には委託先を監督する義務が生じます。クラウド事業者やアノテーション会社にデータを渡す場面は、この委託として整理されることが多い場面です。

本人の同意なしにデータを広く使いたいときの制度が、匿名加工情報と仮名加工情報です。匿名加工情報は、特定の個人を識別できないように加工し、かつ元の個人情報を復元できないようにしたものです。ここまで加工してあるので、本人の同意なしに第三者へ提供できます。仮名加工情報は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工したものです。氏名などを削れば足りるので加工の手間は軽く、元データの分析価値を残せますが、その代わり原則として第三者への提供はできず、事業者の内部での分析利用が想定されています。加工の程度が軽いほど外に出せなくなる、と覚えると取り違えにくくなります。

GDPRは、EUの一般データ保護規則です。日本の個人情報保護法とは別の、EUの法令である点をまず押さえます。そのうえで、EU域内にいる人の個人データを扱う場合には、EU域外の日本企業にも適用されうるという域外適用の性質を持ちます。EU向けにサービスを提供している、あるいはEU域内の人の行動を監視しているといった事情があれば、日本国内で開発していても対象になり得ます。

著作権法に移ります。著作物とは、思想または感情を創作的に表現したもので、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものです。ここで効いてくるのが創作性で、単なる事実やデータそのもの、ありふれた表現には著作物性が認められません。プログラムのソースコードは著作物になり得ますが、アルゴリズムそのものは表現ではないので著作権では保護されません。他人の著作物を無断で複製したり公衆に送信したりすれば著作権侵害になりますが、法律はいくつかの場合に権利を制限しています。

AI開発でいちばん重要な条文が著作権法 第30条の4です。この条文は、著作物に表現された思想または感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合には、必要と認められる限度で、方法を問わずその著作物を利用できると定めています。そして第2号に情報解析が明示されており、大量の著作物からデータを抽出して統計的に解析する行為、つまり機械学習のための学習用データの作成と学習がここに当たります。「享受」とは、著作物に表現された思想や感情を鑑賞して知的・精神的な満足を得ることを指し、学習のためにデータとして読み込む行為はそれに当たらない、という整理です。

ただし、これを「AI学習ならどんな利用でも自由」と読んではいけません。第30条の4には、当該著作物の種類および用途ならびに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない、というただし書きが付いています。たとえば、情報解析用に販売されているデータベースを買わずに複製して学習に使うような場合は、そのデータベースの市場を害するので、ただし書きに当たると考えられています。さらに、学習という入力段階が適法であっても、生成物が既存の著作物と類似していれば、生成・利用という出力段階では通常どおり著作権侵害が問題になります。入力段階と出力段階は別々に評価される、というのがこの分野の基本の型です。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」が、この整理を詳しく示しています。

生成物の側の論点がAI生成物の著作物性です。著作権は人間の創作的な表現を保護する制度なので、AIが自動的に出力しただけのものは著作物になりません。他方、人間が表現上の本質的な特徴を与えたと言える程度に関与していれば、その成果物に著作物性が認められる余地があります。判断の鍵になるのが創作的寄与で、指示や試行錯誤の具体性、生成物の選択や修正の度合いなどが個別に見られます。「AIが作ったものは常に著作物である」も「AIが作ったものは決して著作物にならない」も、どちらも誤りです。なお、学習や生成のためにサービスを使うときは、著作権法とは別に、そのサービスの利用規約が生成物の扱いを定めていることがあるので、両方を見る必要があります。

特許法は発明を保護します。発明は自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものとされ、特許を受けるには新規性(出願前に公然と知られていないこと)と進歩性(その分野の通常の技術者が容易に思いつくものでないこと)が要ります。学会発表やプレスリリースを先に出してしまうと自らの発明の新規性を失わせることがあるので、出願との順序が実務上の勘所になります。著作権が表現を保護し、出願も登録もなしに創作と同時に発生するのに対し、特許権はアイデア(技術的思想)を保護し、出願と審査を経て登録されて初めて発生します。両者は保護する対象も発生の仕方も違うので、AIの成果物は片方に当たり、もう片方には当たらないということが普通に起こります。

従業者が職務としてした発明を職務発明といいます。特許を受ける権利は原則として発明者である従業者に生じますが、あらかじめ勤務規則などで定めておけば、発生した時から使用者に帰属させることもできます。その場合、従業者には相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利が認められます。使用者が対価なしに権利を取り上げられる制度ではありません。

技術を守る方法は特許だけではありません。不正競争防止法は営業秘密を保護します。営業秘密と認められるには、秘密として管理されていること(秘密管理性)、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)の3つをすべて満たす必要があります。学習済みモデルの重みや学習データの前処理の工夫のように、公開したくない情報はこちらで守ることになります。特許は公開と引き換えに独占を得る制度、営業秘密は公開しないことで守る制度なので、どちらを選ぶかは戦略の問題です。

3要件を満たさなくても、複数の相手に反復して提供されるデータには保護の道があります。同じ不正競争防止法の限定提供データがそれで、業として特定の者に提供する情報で、電磁的方法により相当量蓄積され、管理されているものが対象です。データを売買・共有する取引を保護するために設けられた区分で、秘密として囲い込む営業秘密とは想定している場面が異なります。また、AIとデータをめぐっては独占禁止法も論点になります。データを持つ事業者が競合の参入を難しくする形で取引を拒んだり条件を付けたりすると、競争制限や公正競争阻害性の観点から問題とされ得ます。

最後に契約です。AI開発を外部に委託するとき、精度をどこまで約束できるかが最大の争点になります。請負契約は仕事の完成を約束する契約で、完成しなければ報酬を請求できず、契約に適合しない成果物には修補などの責任を負います。準委任契約は事務の処理を委託する契約で、約束するのは仕事の完成ではなく、善良な管理者の注意をもって業務を遂行することです。AI開発では、学習してみるまで到達できる精度が分からないため、探索やPoCの段階は準委任契約で進め、仕様が固まった実装工程を請負契約にするという分け方がよく取られます。経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」が、アセスメント・PoC・開発・追加学習という段階に分けた契約の型を示しており、シラバスにもこの名称で載っています。開発の前段でデータや情報を交換するときはNDA(秘密保持契約)を結び、納品後の面倒を見る範囲は保守契約で定めます。

自社が作ったAIをサービスとして提供する側に回ると、論点が変わります。SaaS型では、ソフトウェアの所有権を渡すのではなく、利用する権利を継続的に提供します。そのため、利用者が入力したデータを提供者が自社モデルの改善に使ってよいかというデータ利用権の定めが要になります。ここを利用規約で明確にしていないと、後から利用者との間で紛争になります。精度保証についても、開発委託の場合と同様に、どの条件下でどの指標がどの水準を満たすのかを具体的に書くか、あるいは保証しないことを明示するかを決めておきます。

個人情報・仮名加工情報・匿名加工情報の違い
区分加工の程度本人同意なしの第三者提供
個人情報・個人データ加工しない不可(原則として本人の同意が必要)
仮名加工情報他の情報と照合しない限り識別できない程度不可(原則。内部での分析利用が想定)
匿名加工情報識別できず、かつ復元もできない程度可(所定の公表等の手続を行う)

用語

個人情報
生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などにより特定の個人を識別できるもの。個人識別符号が含まれるものもこれに当たる。
個人データ
検索できるように体系的に整理された個人情報データベース等を構成する個人情報。安全管理措置や第三者提供の規律がここに掛かる。
保有個人データ
事業者が開示・訂正・利用停止などに応じる権限を持つ個人データ。本人からの請求に対応する義務が生じる。
個人識別符号
指紋・顔認識データ・DNAの塩基配列を変換した符号や、マイナンバー・旅券番号などの番号。それ単体で個人情報になる。
要配慮個人情報
人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪の経歴など、不当な差別や偏見が生じうる情報。取得の段階から原則として本人の同意が要る。
第三者提供
個人データを自社以外の者に渡すこと。原則として本人の同意が必要。委託や事業承継に伴う提供は第三者提供に当たらない。
委託
利用目的の達成に必要な範囲で個人データの取り扱いを外部に委ねること。第三者提供に当たらない代わりに、委託先を監督する義務が生じる。
匿名加工情報
特定の個人を識別できず、かつ元の個人情報を復元できないように加工した情報。本人の同意なしに第三者へ提供できる。
仮名加工情報
他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した情報。原則として第三者提供はできず、内部での分析利用が想定される。
GDPR
EUの一般データ保護規則。日本の法律ではないが、EU域内にいる人の個人データを扱う場合には域外の事業者にも適用されうる。
創作性
著作物と認められるための要件の一つ。単なる事実やありふれた表現には認められず、作り手の個性が表れている必要がある。
著作権法 第30条の4
思想または感情を自ら享受し他人にも享受させることを目的としない利用を認める規定。第2号に情報解析が明示され、ただし書きがある。
AI生成物
AIが出力した成果物。著作物性は人間の創作的寄与の有無で個別に判断され、常に著作物になるとも、決してならないとも言えない。
新規性・進歩性
特許の要件。新規性は出願前に公然と知られていないこと、進歩性はその分野の通常の技術者が容易に思いつくものでないこと。
職務発明
従業者が職務としてした発明。勤務規則等で定めれば権利を発生時から使用者に帰属させられるが、従業者には相当の利益を受ける権利がある。
営業秘密
不正競争防止法が守る情報。秘密管理性・有用性・非公知性の3要件をすべて満たす必要がある。公開せずに守る点が特許と対照的。
限定提供データ
業として特定の者に提供する、電磁的方法により相当量蓄積され管理されているデータ。営業秘密の3要件を満たさなくても保護されうる。
請負契約
仕事の完成を約束する契約。完成しなければ報酬を請求できず、契約に適合しない成果物には責任を負う。仕様が固まった工程に向く。
準委任契約
事務の処理を委託する契約。約束するのは完成ではなく、善良な管理者の注意をもって業務を遂行すること。探索やPoCの段階に向く。
AI・データの利用に関する契約ガイドライン
経済産業省が示した、AI開発とデータ提供の契約の考え方。段階を分けて契約する型を示す。シラバスに名称が載っている資料。
データ利用権
SaaS型のAIサービスで、利用者が入力したデータを提供者がどこまで使えるかを定める権利関係。利用規約で明確にしておく必要がある。

例題

例題:自社のAIサービスがある業界で圧倒的なシェアを持つようになり、そのサービスに蓄積されたデータが競合にとって欠かせないものになった。ここで独占禁止法が問題になるのはどういう場面か。
答えと考え方 独占禁止法の観点でシラバスが挙げているのは、競争制限と公正競争阻害性の2つである。データを持つ事業者が、正当な理由なく競合へのデータ提供を拒む、あるいは自社サービスを併せて買うことを条件にする、取引先に競合と取引しないよう求める、といった行為をすると、市場での競争を人為的に制限したり、公正な競争を妨げたりするものとして問題になり得る。ここで大事なのは、シェアが高いこと自体は違法ではないという点である。良いサービスを作って選ばれた結果としての高いシェアは、競争の成果であって規制の対象ではない。問題になるのは、そのシェアを維持するために競争そのものを妨げる手段を使ったときである。AIの分野では、学習データの囲い込みや、モデルへのアクセス条件の設定がこの観点から議論されている。
例題:自社の需要予測モデルをSaaSとして他社に提供する。利用企業が入力した販売実績を、自社モデルの改善のための再学習に使いたい。何を決めておく必要があるか。
答えと考え方 決めるべきことは3つある。第一に、入力データを再学習に使ってよいかを利用規約に明記する。SaaSはソフトウェアそのものを渡すのではなく利用する権利を継続的に提供する形なので、事業者の手元にデータが集まる。ここを黙って使うと信頼を失い、紛争にもなる。オプトアウトの手段を用意するか、使わない選択ができる料金体系にするのが一般的である。第二に、入力データに個人情報が含まれる場合は、個人情報保護法の観点で整理する。利用企業のために処理するだけなら委託の枠に収まるが、自社モデルの改善という自社のための利用は委託の範囲を超えるので、利用企業側で本人への説明と同意の手当てが要るかを確認する。第三に、精度保証である。学習データが利用企業ごとに違えば精度も変わるので、どの条件下でどの指標がどの水準を満たすのかを書くか、保証しないことを明示するかを決めておく。

出典・根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 1. 個人情報保護法、2. 著作権法、3. 特許法、4. 不正競争防止法、5. 独占禁止法、6. AI開発委託契約、7. AIサービス提供契約/著作権法 第30条の4/文化庁「AIと著作権に関する考え方について」

3. AI倫理とAIガバナンス

法律で決まっていないところをどう律するか。プライバシー・公平性・安全性・透明性という論点と、それを組織で回す仕組みを見ます。

法律・倫理分野の後半は、法令に書かれていない領域の話です。ここでまず押さえるのがハードローとソフトローの区別です。ハードローは、国家が定め違反に強制力が及ぶ法令のことで、個人情報保護法や著作権法がこれに当たります。ソフトローは、ガイドライン・業界の自主規範・企業の行動指針のように、法的な拘束力を持たない規律です。技術の変化が速い分野では、法律を作って施行するまでの間に前提が変わってしまうため、まずソフトローで方向を示し、必要なところだけ法律にするという進め方が取られます。日本のAI政策は基本的にこのソフトロー中心です。なお2025年には、AIの研究開発と活用を推進するための法律が成立していますが、これは研究開発と利活用を後押しする推進法であって、行為を禁じて違反者を罰する規制法ではなく、罰則規定も置かれていません。この点は、リスクの大きさに応じて禁止や義務を課すEUの規則とは性格が異なります。総務省と経済産業省が示している事業者向けのガイドラインも、名前のとおりガイドラインであってソフトローです。

規制の考え方として重要なのがリスクベースアプローチです。これは、AIの用途がもたらすリスクの大きさに応じて規制や対応の強度を変えるという考え方です。同じ顔認識技術でも、スマートフォンの画面ロック解除と、公共空間での常時監視とでは、人に及ぶ影響がまるで違います。用途を問わず一律に規制すると、害の小さい使い方まで止めてしまってイノベーションを損ない、逆に一律に緩めると害の大きい使い方を放置することになります。そこで、影響の大きい用途には強い義務を、小さい用途には軽い扱いを割り当てます。事業者の側でも、社内のAI案件をリスクの高さで区分し、高リスクのものだけ厳しい審査に回す、という形で同じ考え方を使います。

プライバシーは、個人情報保護法が守る範囲より広い概念です。法律に触れていなくても、人が「そこまで見られたくない」と感じることはあります。対応の基本になるのがプライバシー・バイ・デザインで、問題が起きてから対策を足すのではなく、企画・設計の段階からプライバシー保護を組み込むという考え方です。データを集めない設計にする、必要な期間で消す、識別できない形で処理する、といった判断は後から入れるほど高くつきます。シラバスは、データ収集段階と推論段階で問題の所在が違うことも挙げています。集めるときの問題は、本人が知らないうちに撮られる・記録されることであり、推論するときの問題は、集めた情報から本人が明かしていない属性を推定してしまうことです。カメラ画像については、経済産業省などが公表しているカメラ画像利活用ガイドブックが、撮影していることの告知の仕方や、生活者とのコミュニケーションの取り方を具体的に示しています。

公平性は、AIの出力が特定の属性の人に不利に働かないかという論点です。原因は大きく2つに分けられます。1つはデータの偏りで、そもそも学習データが現実の人口構成を反映していない場合です。特定の層のデータばかり集まってしまうことをサンプリングバイアスと呼びます。もう1つは、モデルや設計の側で生じるアルゴリズムバイアスです。過去の採用実績を学習すれば、過去の人事判断に含まれていた偏りをそのまま再生産します。

ここで最も間違えやすいのが、性別や人種のようなセンシティブ属性を入力から取り除けば公平になる、という発想です。これは成り立ちません。郵便番号は居住地域を通じて人種や所得と強く相関し、出身校や部活動の履歴は性別と相関することがあります。こうした、センシティブ属性の代わりとして働いてしまう特徴量を代理変数と呼びます。代理変数が残っている限り、モデルは間接的に同じ差別を学習します。したがって公平性の確認は、入力の項目を削ることではなく、出力を属性ごとに集計して差を測ることで行います。さらに厄介なことに、公平性の定義は1つではありません。属性ごとの合格率をそろえる、属性ごとの誤り率をそろえる、同じスコアの人を同じ確率で扱う、といった複数の定義があり、一般にはこれらを同時にすべて満たすことはできません。どの定義を採るのかを、用途に照らして選んで説明することが求められます。

安全性とセキュリティでは、AI特有の攻撃を区別できることが問われます。Adversarial Attack(Adversarial Examples)は、人間の目にはほとんど分からない微小な変化を入力に加えて、モデルに誤った判定をさせる攻撃です。運用中のモデルの入力側を狙う攻撃で、モデルそのものは書き換えません。データ汚染は、学習に使われるデータに細工したものを紛れ込ませて、学習の結果を攻撃者の望む方向にゆがめる攻撃です。学習段階を狙う点が決定的に違います。モデル汚染は、モデルのパラメータや配布物そのものに手を入れて挙動を変えるものです。データ窃取は、モデルの出力を観察するなどして学習データに含まれていた情報を取り出す攻撃、モデル窃取は、大量に問い合わせて出力を集め、同等の働きをするモデルを手元に再現してしまう攻撃です。前者は学習データが、後者はモデル自体が盗まれます。これらへの備えも、設計段階からセキュリティを組み込むセキュリティ・バイ・デザインの考え方で進めます。

悪用の代表がディープフェイクです。深層学習を使って、実在する人物が言っていないことを言い、していないことをしているかのような映像や音声を作り出す技術と、その生成物を指します。名誉毀損や詐欺、選挙への干渉に使われ、フェイクニュースの説得力を跳ね上げます。対策としては、検出技術の研究に加えて、撮影機器や生成時点で来歴情報を埋め込み、後から改変を検証できるようにする方向が進められています。

透明性は、AIが何をどう判断したのかを外から分かるようにすることです。深層学習のモデルは、内部で何が起きているのかを人が追いにくいブラックボックスになりがちです。融資の審査や採用の選考のように、結果が人の生活を左右する場面では、なぜその結論になったのかを説明できることが求められます。これが説明可能性です。あわせて重要なのがデータの来歴で、どのデータをどこから取得し、どう加工して学習に使ったかを記録しておくことを指します。来歴が残っていなければ、問題が起きたときに原因のデータまでたどり着けません。透明性は、モデルの内部を公開することだけを意味するのではなく、何のために使っているのか、どんなデータで作ったのか、どこに限界があるのかを対象に応じて示すことまで含みます。

民主主義への影響として挙げられるのがエコーチェンバーとフィルターバブルです。エコーチェンバーは、同じ意見を持つ人どうしが閉じた空間で発信と共感を繰り返すうちに、その意見が唯一正しいものだと信じ込んでいく現象です。反響室で音が響き合う様子にたとえた言葉で、原因は人が似た者どうしで集まるという性質にあります。フィルターバブルは、推薦アルゴリズムが利用者の好みに合わせて情報を選別した結果、その人が泡に包まれたように自分好みの情報しか見えなくなる現象です。こちらの原因はアルゴリズムによる最適化であり、利用者は選別されていること自体に気づきません。原因がアルゴリズムの側にあるのはフィルターバブルのほうだ、という点が両者を分ける鍵です。

そのほかの価値も、シラバスは中項目として立てています。環境保護では、大規模モデルの学習が消費する電力と、それに伴う二酸化炭素の排出が気候変動の観点から議論されています。労働政策では、雇用が奪われるかどうかだけでなく、AIとの協働の形をどう設計するか、労働力不足を補う手段としてどう使うか、そして人がAIに頼りきることで自分の判断力や技能を失っていくスキルの喪失が論点です。その他の重要な価値としては、障害の有無や言語にかかわらず使えるようにするインクルージョン、自律型兵器をめぐる軍事利用、故人の映像や声を生成することの是非という死者への敬意、そしてAIの推薦や誘導によって人の選択が方向づけられることへの人間の自律性が挙げられています。

これらを個人の心がけに任せず、組織の仕組みとして回すのがAIガバナンスです。出発点はAIポリシーで、自社がAIをどう扱うのかという方針を文書にして公表します。個別の案件については、企画の段階で影響を洗い出す倫理アセスメントを行い、リスクの高いものは審査に回します。運用が始まったら、出力の傾向や苦情をモニタリングし、想定と違う挙動が出ていないかを見張ります。判断の要所には人間の関与を残し、AIの結論をそのまま実行するのではなく人が確認して覆せるようにします。作ったモデルを後から再び作れるように、データ・コード・設定・乱数の種まで残しておくことが再現性で、どのデータからどのモデルを経てどの判断が出たのかを追えるようにしておくことがトレーサビリティです。そして、これらが方針どおり運用されているかを、担当部署から独立した立場で確かめるのがAIに対する監査です。設計や評価に関わる人の顔ぶれが偏っていると見落としが生まれるため、ダイバーシティも体制づくりの要件として挙げられています。

AIをめぐる代表的な攻撃と、狙われる対象
攻撃狙う時点起きること
Adversarial Attack推論(運用中)微小な変化を加えた入力で誤った判定をさせる
データ汚染学習細工した学習データを混ぜて学習結果をゆがめる
モデル汚染学習・配布モデルのパラメータや配布物に手を入れて挙動を変える
データ窃取推論(運用中)出力の観察などから学習データの情報を取り出す
モデル窃取推論(運用中)大量の問い合わせから同等のモデルを手元に再現する

用語

ハードロー
国家が定め、違反に強制力が及ぶ法令。個人情報保護法や著作権法がこれに当たる。改正には時間がかかる。
ソフトロー
ガイドライン・業界の自主規範・企業の行動指針など、法的な拘束力を持たない規律。変化の速い分野で先に方向を示す役割を担う。
リスクベースアプローチ
用途がもたらすリスクの大きさに応じて、規制や社内対応の強度を変える考え方。一律規制とも一律放任とも異なる。
価値原則
各国や各機関のAIガイドラインに共通して現れる、守るべき価値の柱。人間中心、公平性、透明性、安全性などが繰り返し挙げられる。
プライバシー・バイ・デザイン
問題が起きてから対策するのではなく、企画・設計の段階からプライバシー保護を組み込む考え方。
カメラ画像利活用ガイドブック
カメラ画像を扱う事業者向けに、告知の仕方や生活者とのコミュニケーションの取り方を示した資料。シラバスに名称が載っている。
サンプリングバイアス
データを集める過程で特定の層に偏りが生じ、学習データが現実の分布を反映しなくなること。公平性の問題の主要な原因の一つ。
アルゴリズムバイアス
モデルや設計の側に起因して不公平な出力が生じること。過去の判断を学習することで、その偏りを再生産する場合も含まれる。
センシティブ属性
性別・人種・年齢・障害の有無など、それによる不利益な取り扱いが許されない属性。公平性の評価はこの属性ごとに出力を集計して行う。
代理変数
センシティブ属性の代わりとして働いてしまう特徴量。郵便番号が居住地域を通じて人種や所得と相関する例が典型。
Adversarial Attack
人間には気づけない微小な変化を入力に加えて、運用中のモデルに誤った判定をさせる攻撃。Adversarial Examples とも呼ばれる。
データ汚染
学習に使われるデータに細工したものを紛れ込ませ、学習結果を攻撃者の望む方向にゆがめる攻撃。狙うのは学習段階である。
モデル窃取
対象のモデルに大量に問い合わせて入出力を集め、同等の働きをするモデルを手元に再現してしまう攻撃。
データ窃取
モデルの出力を観察するなどして、学習データに含まれていた情報を取り出す攻撃。盗まれるのはモデルではなくデータである。
セキュリティ・バイ・デザイン
設計の段階からセキュリティ対策を組み込む考え方。プライバシー・バイ・デザインと対になる概念。
ディープフェイク
深層学習を使い、実在する人物が言っていないことを言い、していないことをしているかのような映像や音声を作り出す技術とその生成物。
ブラックボックス
内部で何が起きているのかを人が追いにくい状態。深層学習のモデルは規模が大きく、判断根拠が直接には読み取れない。
データの来歴
どのデータをどこから取得し、どう加工して学習に使ったかの記録。透明性の確保と、問題発生時の原因追跡の土台になる。
エコーチェンバー
同じ意見を持つ人どうしが閉じた空間で発信と共感を繰り返し、その意見が唯一正しいと信じ込んでいく現象。
フィルターバブル
推薦アルゴリズムによる最適化の結果、自分好みの情報しか見えなくなる現象。原因がアルゴリズムの側にある点がエコーチェンバーとの違い。
倫理アセスメント
AIの企画段階で、想定される影響やリスクを洗い出して評価する手続き。結果に応じて審査の厳しさを変える。
人間の関与
AIの結論をそのまま実行せず、要所で人が確認し、必要なら覆せるようにしておくこと。影響の大きい判断ほど強く求められる。
トレーサビリティ
どのデータからどのモデルを経てどの判断が出たのかを、後から追跡できるようにしておくこと。
AIに対する監査
AIの開発と運用が方針どおりに行われているかを、担当部署から独立した立場で確かめる仕組み。

例題

例題:大規模なモデルを社内で開発し、四半期ごとにゼロから学習し直す運用を計画している。環境保護の観点からは、どのような論点があるか。
答えと考え方 シラバスが環境保護の中項目に挙げているのは、気候変動とモデル学習の電力消費の2つである。大規模モデルの学習には長時間にわたって多数の計算機を動かす必要があり、その電力消費と、電源構成に応じた二酸化炭素の排出が問題として議論されている。したがって論点は3つに整理できる。第一に、そもそもゼロからの再学習が必要かという点である。追加分のデータでの追加学習や、既存の事前学習済みモデルの流用で足りるなら、消費は桁で変わる。第二に、いつどこで計算するかという点である。再生可能エネルギーの比率が高い地域や時間帯に学習を寄せる運用が取られている。第三に、測って公開するかという点である。学習にかかった消費電力や排出量を見積もって開示する取り組みが広がっている。なお、推論の側も見落とせない。1回あたりの消費は小さくても、利用回数が多ければ累計では学習を上回ることがあるため、モデルの軽量化は環境の観点からも意味を持つ。
例題:熟練の検査員が担っていた判定をAIに任せたところ、若手が自分で判断する機会がなくなり、AIが停止したときに誰も判定できない状態になった。労働政策とその他の重要な価値の観点で、何が問題か。
答えと考え方 労働政策の観点では、これはスキルの喪失にあたる。AIに任せることで人の技能が育たず、あるいは失われていく現象で、雇用の総量が減るかどうかとは別の問題である。ここで求められるのは、人をAIに置き換える設計ではなく、AIとの協働の設計である。たとえば、AIの判定に確信度を付けて低いものだけ人に回す、一定割合は人が独立に判定して突き合わせる、判定の根拠を提示して人が学べるようにする、といった形が考えられる。労働力不足への対処としてAIを使う場合も、残る人の技能をどう維持するかを同時に決めておく必要がある。その他の重要な価値としては、人間の自律性が関わる。AIの提示した結論に人が無条件で従うようになると、形の上では人が決めていても実質的にはAIが決めていることになる。AIガバナンスの語でいえば人間の関与にあたり、AIの結論を確認し、必要なら覆せる権限と能力を人の側に残しておくことが要件になる。

出典・根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 8. 国内外のガイドライン、9. プライバシー、10. 公平性、11. 安全性とセキュリティ、12. 悪用、13. 透明性、14. 民主主義、15. 環境保護、16. 労働政策、17. その他の重要な価値、18. AIガバナンス

確認問題(30問)

四肢択一。「正解と解説」を開くと、正解の理由と他の選択肢が違う理由を確認できます。

問1|CRISP-DM

データ分析プロジェクトの標準的な進め方であるCRISP-DMで、最初に置かれている段階の内容はどれか。

  1. 解くべき業務上の課題と、成功と言える基準を明確にする
  2. 手元にあるデータの品質や分布を調べ、傾向をつかむ
  3. 欠損値の処理や特徴量の作成を行い、学習用に整える
  4. 作成したモデルを業務システムに組み込んで運用する
正解と解説
正解:A. 解くべき業務上の課題と、成功と言える基準を明確にする

CRISP-DMは、ビジネス理解、データ理解、データ準備、モデリング、評価、展開の6段階からなる。最初はビジネス理解で、解くべき業務課題と、どうなったら成功と言えるのかの基準を決める。データの品質や分布を調べるのはデータ理解、欠損値の処理や特徴量の作成はデータ準備、業務システムへの組み込みは展開の段階にあたる。6段階は一方向に流れるだけでなく、前の段階へ戻りながら反復する円環として描かれる点も押さえておきたい。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問2|PoC

AIプロジェクトにおけるPoCの位置づけとして、最も適切なものはどれか。

  1. 完成したモデルを本番環境に配置し、継続して監視と再学習を行う工程
  2. 学習データに正解となるラベルを付ける作業を、基準を定めて進める工程
  3. 本格的な開発に入る前に、小規模に試して実現可能性と効果を確かめる工程
  4. 業務の流れそのものを目的にさかのぼって設計し直し、生産性を高める工程
正解と解説
正解:C. 本格的な開発に入る前に、小規模に試して実現可能性と効果を確かめる工程

PoCは概念実証のことで、本格的な開発に投資する前に小さく作って試し、そのデータで必要な精度が出るのか、出たとして業務が回るのかを確かめる工程である。完成品を作ることが目的ではないので、始める前に次へ進む条件と撤退の条件を決めておかないと、成果の出ない試行を繰り返すことになる。本番配置後に監視と再学習を回すのはMLOps、正解ラベルを付ける作業はアノテーション、業務の流れ自体を設計し直すのはBPRであり、いずれもPoCとは別の工程を指している。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問3|アノテーション

機械学習のためのデータ準備で行うアノテーションの説明として、適切なものはどれか。

  1. 収集した文章を大量に集めて整理し、言語処理用のデータの集まりにする
  2. 収集したデータに、学習の正解となるラベルや領域の情報を人手で付ける
  3. 収集したデータを訓練用と検証用に分け、性能を測れる形にしておく
  4. 収集したデータから欠損値や外れ値を取り除き、分布を整える
正解と解説
正解:B. 収集したデータに、学習の正解となるラベルや領域の情報を人手で付ける

アノテーションは、生のデータに正解ラベルや領域情報を人手で付ける作業で、教師あり学習に欠かせない。付け方の基準が作業者ごとにぶれるとモデルの性能の上限がそこで決まってしまうため、作業指示書と品質チェックの設計が要になる。大量の文章を集めて整理したものはコーパス、訓練用と検証用への分割や欠損値と外れ値の処理はデータ準備のうちの別の作業であり、いずれもラベルを付ける行為そのものではない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 36. データの収集・加工・分析・学習

問4|リーケージ

学習データの扱いに起因するデータリーケージの説明として、最も適切なものはどれか。

  1. 訓練データに合わせすぎた結果、未知のデータに対する性能が落ちる現象
  2. 検証用のデータが少なすぎて、測った精度そのものが安定しなくなる現象
  3. 特徴量の次元が増えすぎ、必要となるデータ量が急激に膨らんでしまう現象
  4. 予測時点では得られない情報が学習に混入し、性能が不当に高く見える現象
正解と解説
正解:D. 予測時点では得られない情報が学習に混入し、性能が不当に高く見える現象

データリーケージは、予測を行う時点では本来手に入らないはずの情報が学習データに混ざり込み、検証時の精度が実力よりずっと高く出てしまう現象である。解約予測に解約手続きの受付日を入れる、前処理の平均や標準偏差を検証データも含めた全体から計算する、時系列データを時間を無視してランダムに分割する、といった形で起こる。訓練データに合わせすぎるのは過学習で、原因は「使ってはいけない情報を使った」ことではなく「合わせすぎた」ことにある。次元が増えて必要データ量が膨らむのは次元の呪いであり、いずれもリーケージとは原因が異なる。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 36. データの収集・加工・分析・学習

問5|MLOps

AIシステムの運用におけるMLOpsの考え方として、最も適切なものはどれか。

  1. 本番配置の前に、モデルの精度が要件を満たすことを一度確認しておく
  2. 配置後もデータと精度を監視し、再学習と再配置を継続的に回していく
  3. 学習に使う計算資源をクラウドから借り、費用を使った分だけに抑える
  4. 開発環境をコンテナにまとめ、本番でも同じ環境を再現できるようにする
正解と解説
正解:B. 配置後もデータと精度を監視し、再学習と再配置を継続的に回していく

MLOpsは、モデルを配置して終わりにせず、入力データの分布や予測の傾向、業務指標までを監視し、ずれが出たら学習データを更新して作り直し、再び配置するという循環を仕組みとして回す考え方である。世の中が変われば入力の傾向も変わり、精度は静かに落ちていくため、一度の確認では足りない。計算資源を借りるのはクラウドの利用、実行環境をまとめて再現するのはDockerの役割であり、どちらもMLOpsを支える道具ではあるが、それ自体がMLOpsの定義ではない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問6|BPR

AI導入とあわせて論じられるBPRの内容として、適切なものはどれか。

  1. 目的にさかのぼって、業務の流れそのものを設計し直すこと
  2. 既存の業務手順を保ったまま、一部の作業をAIに置き換えること
  3. 業務の担当者を集めて、AIに求める要件を聞き取っていくこと
  4. 業務のデータを収集して、AIが学習できる形に整えていくこと
正解と解説
正解:A. 目的にさかのぼって、業務の流れそのものを設計し直すこと

BPRはビジネスプロセス・リエンジニアリングのことで、既存の業務手順を部分的に改善するのではなく、何のための業務かにさかのぼって流れそのものを設計し直す取り組みを指す。手順を残したままAIを載せると、AIの出力を人が転記する工程が増えるだけで効果が出ないことがあり、AI導入の成否は精度よりもここで決まる場面が少なくない。要件の聞き取りはステークホルダーのニーズの把握、学習できる形への整形はデータ準備にあたり、いずれも業務プロセスの再設計そのものではない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問7|開発の進め方

AI開発にウォーターフォールをそのまま適用しにくいとされる理由として、最も適切なものはどれか。

  1. 開発に用いる言語やライブラリの選択肢が多く、標準化が進んでいないため
  2. 学習に必要な計算資源の調達に時間がかかり、工程が予定どおり進まないため
  3. 開発に関わる担当者の職種が多岐にわたり、工程の分担を決めにくいため
  4. 学習してみるまで到達できる精度が分からず、要件を先に固定できないため
正解と解説
正解:D. 学習してみるまで到達できる精度が分からず、要件を先に固定できないため

ウォーターフォールは、要件定義から順に工程を固め、後戻りしないことを前提に進める方式である。ところがAI開発は、実際に学習させてみるまでどこまでの精度に届くか分からないという性質を持つため、成果物と要件を先に確定させることができない。そこで探索やPoCの段階は短い反復で進めるアジャイルの形をとり、精度が見通せてから本開発の工程を固める組み合わせが取られる。この性質は、開発委託を請負契約と準委任契約のどちらにするかという契約の設計にも直接影響する。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問8|Docker

AI開発でDockerを用いる主な目的はどれか。

  1. 学習の途中経過と実行結果を、説明文と一緒に1つの文書として残す
  2. 学習済みモデルを、他のシステムからHTTPで呼び出せる形で公開する
  3. ライブラリまで含む実行環境をまとめ、別の環境でも同じ状態で動かす
  4. 大量の計算資源を必要な時間だけ借り、使い終わったら返却してしまう
正解と解説
正解:C. ライブラリまで含む実行環境をまとめ、別の環境でも同じ状態で動かす

Dockerは、アプリケーションとライブラリを含む実行環境をコンテナとしてまとめる技術である。同じコンテナを開発機でも本番でも動かせるので、版の違いによる「自分の環境では動いたのに」という食い違いが減る。途中経過と結果を説明文とともに1つの文書に残すのはJupyter Notebook、HTTPで呼び出せる形にするのはWeb API、必要な時間だけ計算資源を借りるのはクラウドの利用であり、いずれもAI開発で使う別の道具を指している。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問9|コーパス

自然言語処理の分野でいうコーパスの説明として、適切なものはどれか。

  1. 言語処理のために集められ、整理された大量の文章データの集まり
  2. 研究や開発のために広く公開されている、画像や音声のデータの集まり
  3. 単語をベクトルで表すために学習された、重みのパラメータの集まり
  4. 文章を単語に区切って品詞を判定する、形態素解析の処理の集まり
正解と解説
正解:A. 言語処理のために集められ、整理された大量の文章データの集まり

コーパスは、自然言語処理のために集められ整理された大量の文章データを指す。用途に応じて品詞や構文の情報が付与されていることもある。研究や開発のために公開されているデータの集まり一般はオープンデータセットで、画像や音声も含み、文章に限られない。単語のベクトル表現は学習の成果物であってデータの集まりではなく、形態素解析は文章を処理する手法であり、いずれもコーパスの定義とは異なる。なお、コーパスにもライセンスと利用規約があるので、商用利用や再配布の可否は個別に確認する。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 36. データの収集・加工・分析・学習

問10|外部との連携

AI開発の文脈で言われるオープン・イノベーションの説明として、最も適切なものはどれか。

  1. 開発したモデルとソースコードを、誰でも使える形で無償公開すること
  2. 外部の技術や知識、人材を積極的に取り込んで新たな価値を生むこと
  3. 社内の各部門から人を集めて、部門をまたぐ開発体制をつくること
  4. 公開されているデータセットを活用して、収集の手間を減らすこと
正解と解説
正解:B. 外部の技術や知識、人材を積極的に取り込んで新たな価値を生むこと

オープン・イノベーションは、自社内の研究開発だけに閉じず、外部の技術・知識・人材を積極的に取り込んで価値を生む考え方である。シラバスは同じ中項目に産学連携と他企業や他業種との連携を並べており、大学など研究機関との共同研究や、自社にないデータや販路を持つ相手との組み合わせがその手段になる。成果物を無償公開することはオープンソースの考え方で、外部の資源を取り込むこととは方向が逆である。社内の部門横断体制や公開データセットの活用は、いずれも社外の主体との連携そのものを指してはいない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 技術分野 AI の社会実装に向けて 35. AI プロジェクトの進め方

問11|加工情報の別

個人情報保護法における匿名加工情報と仮名加工情報の違いとして、正しいものはどれか。

  1. 匿名加工情報は本人の同意なく第三者に提供できないが、仮名加工情報は提供できる
  2. どちらも本人の同意があれば第三者に提供でき、同意がなければ提供はできない
  3. 匿名加工情報は本人の同意なく第三者に提供できるが、仮名加工情報は原則できない
  4. どちらも加工の程度にかかわらず、第三者への提供が一律に禁じられている
正解と解説
正解:C. 匿名加工情報は本人の同意なく第三者に提供できるが、仮名加工情報は原則できない

匿名加工情報は、特定の個人を識別できないように加工し、かつ元の個人情報を復元できないようにしたものである。ここまで加工してあるため、所定の手続を行えば本人の同意なく第三者へ提供できる。一方の仮名加工情報は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できない程度まで加工したもので、氏名を削るなど加工の手間は軽く分析価値を残せるが、その代わり原則として第三者提供はできず、事業者の内部での分析利用が想定されている。加工が軽いほど外に出せなくなる、と押さえると取り違えにくい。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 1. 個人情報保護法

問12|個人識別符号

個人情報保護法の個人識別符号に関する説明として、正しいものはどれか。

  1. 旅券番号や顔認識データなどは、それ単体で個人情報として扱われる
  2. 氏名と組み合わせて初めて、特定の個人を識別できるものとして扱われる
  3. 本人の同意を得て取得した場合に限り、個人情報として扱うことになる
  4. 取得の時点では対象外で、データベース化した時点で個人情報になる
正解と解説
正解:A. 旅券番号や顔認識データなどは、それ単体で個人情報として扱われる

個人識別符号には、指紋データ・顔認識データ・DNAの塩基配列を変換した符号のような身体的特徴のデータと、マイナンバー・旅券番号・運転免許証番号のように個人に割り当てられた番号がある。これらはそれ単体で個人情報にあたるので、氏名が入っていなければ個人情報ではない、という理解は誤りである。個人情報にあたるかどうかは取得時の同意の有無で決まるものでもなく、データベース化して初めて個人情報になるものでもない。なお、体系的に整理されて検索できる状態になったものは個人データと呼ばれ、追加の義務が掛かる。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 1. 個人情報保護法

問13|GDPR

GDPRの位置づけについて、正しいものはどれか。

  1. 日本の個人情報保護法を国際的に拡張するために定められた規則である
  2. EUの規則であり、EU域内に拠点を置く事業者だけが対象となる
  3. 国際機関が示した指針であり、各国に対する法的な拘束力は持たない
  4. EUの規則であり、EU域外の事業者にも適用される場合がある
正解と解説
正解:D. EUの規則であり、EU域外の事業者にも適用される場合がある

GDPRはEUの一般データ保護規則で、日本の個人情報保護法とは別のEUの法令である。特徴は域外適用があることで、EU域内にいる人に商品やサービスを提供している、あるいはEU域内の人の行動を監視しているといった事情があれば、日本国内で開発している事業者にも適用されうる。したがって、拠点がEUにあるかどうかだけで対象を判断することはできない。日本法を拡張したものでもなく、拘束力のない指針でもない点も押さえておきたい。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 1. 個人情報保護法

問14|30条の4

著作権法 第30条の4 が、著作権者の許諾なく著作物を利用できるとしている場合はどれか。

  1. 利用する著作物が、インターネット上で無償公開されている場合
  2. 著作物の思想や感情を、自ら享受し他人に享受させる目的でない場合
  3. 利用する目的が営利ではなく、学術的な研究に限られている場合
  4. 利用する著作物の分量が、全体のごく一部にとどまっている場合
正解と解説
正解:B. 著作物の思想や感情を、自ら享受し他人に享受させる目的でない場合

著作権法 第30条の4 は、著作物に表現された思想または感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合に、必要と認められる限度で著作物を利用できると定めている。享受とは、著作物に表現された思想や感情を鑑賞して知的・精神的な満足を得ることを指し、機械学習のためにデータとして読み込む行為はこれに当たらないと整理される。同条第2号には情報解析が明示されており、学習用データの作成と学習はここに位置づけられる。無償公開されていること、営利目的でないこと、分量が少ないことは、いずれもこの条文が定める要件ではない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 2. 著作権法/著作権法 第30条の4

問15|ただし書き

AI学習のための著作物の利用について、著作権法 第30条の4 の理解として正しいものはどれか。

  1. 学習のための利用であれば、いかなる場合も著作権者の利益は問題にならない
  2. 学習が適法であれば、生成物が既存の著作物に似ていても侵害にはならない
  3. 著作権者の利益を不当に害することとなる場合には、この規定は適用されない
  4. 著作物を有償で購入した場合に限り、学習のための利用が認められている
正解と解説
正解:C. 著作権者の利益を不当に害することとなる場合には、この規定は適用されない

第30条の4には、当該著作物の種類および用途ならびに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない、というただし書きが置かれている。したがって「AI学習ならどんな利用でも自由」とは言えない。たとえば、情報解析用に販売されているデータベースを購入せずに複製して学習に使えば、そのデータベースの市場を害するため、ただし書きに当たると考えられている。また、学習という入力の段階が適法でも、生成物が既存の著作物に類似していれば、生成や利用という出力の段階で著作権侵害が別途問題になる。入力と出力は別々に評価される。有償で購入したかどうかは、この条文の適用を決める基準ではない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 2. 著作権法/著作権法 第30条の4/文化庁「AIと著作権に関する考え方について」

問16|生成物の著作権

AI生成物の著作物性について、現在確立している考え方に最も近いものはどれか。

  1. 人間の創作的寄与が認められるかどうかによって、個別に判断される
  2. AIが出力したものである以上、著作物と認められることはない
  3. 利用したサービスの提供者に、著作権が当然に帰属することになる
  4. 生成の指示を出した者に、著作権が常に認められることになる
正解と解説
正解:A. 人間の創作的寄与が認められるかどうかによって、個別に判断される

著作権は人間の創作的な表現を保護する制度なので、AIが自動的に出力しただけのものは著作物にならない。他方、人間が表現上の本質的な特徴を与えたと言える程度に関与していれば、著作物性が認められる余地がある。判断の鍵になるのが創作的寄与で、指示や試行錯誤の具体性、生成物の選択や修正の度合いなどが個別に見られる。したがって、常に著作物にならないという理解も、指示を出した者に常に権利が生じるという理解も誤りである。なお、著作権法とは別に、利用したサービスの利用規約が生成物の扱いを定めていることがあるので、両方を確認する必要がある。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 2. 著作権法/文化庁「AIと著作権に関する考え方について」

問17|職務発明

特許法における職務発明の扱いとして、正しいものはどれか。

  1. 使用者に権利が帰属する場合でも、従業者への利益の支払いは不要である
  2. 職務としてした発明であっても、使用者に権利を帰属させる余地はない
  3. 権利は常に使用者に帰属し、勤務規則で別の定めを置くことはできない
  4. 勤務規則等で定めれば使用者に帰属させられ、従業者は相当の利益を得る
正解と解説
正解:D. 勤務規則等で定めれば使用者に帰属させられ、従業者は相当の利益を得る

職務発明とは、従業者が職務としてした発明をいう。特許を受ける権利は原則として発明者である従業者に生じるが、あらかじめ勤務規則などで定めておけば、発生した時から使用者に帰属させることもできる。その場合、従業者には相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利が認められるので、対価なしに権利を取り上げられる制度ではない。また、常に使用者に帰属するわけでも、帰属させる余地がないわけでもなく、定めの有無によって扱いが変わる点が要点である。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 3. 特許法

問18|営業秘密

不正競争防止法で営業秘密として保護されるための要件の組み合わせはどれか。

  1. 秘密管理性、新規性、非公知性
  2. 秘密管理性、有用性、非公知性
  3. 有用性、新規性、進歩性
  4. 秘密管理性、有用性、進歩性
正解と解説
正解:B. 秘密管理性、有用性、非公知性

営業秘密の3要件は、秘密として管理されていること(秘密管理性)、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)であり、3つをすべて満たして初めて保護される。新規性と進歩性は特許を受けるための要件であって、営業秘密の要件ではない。特許が内容の公開と引き換えに独占を得る制度であるのに対し、営業秘密は公開しないことで守る制度なので、学習済みモデルの重みや前処理の工夫のように公開したくない情報はこちらで守ることになる。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 4. 不正競争防止法

問19|限定提供データ

不正競争防止法の限定提供データについて、正しいものはどれか。

  1. 業として特定の者に提供する、相当量蓄積され管理された電磁的記録が対象
  2. 営業秘密の3要件をすべて満たしたうえで、さらに登録した情報が対象
  3. 誰にも提供せず自社内だけで保管している情報を対象とする区分である
  4. 特許を出願したが登録に至らなかった技術情報を対象とする区分である
正解と解説
正解:A. 業として特定の者に提供する、相当量蓄積され管理された電磁的記録が対象

限定提供データは、業として特定の者に提供する情報で、電磁的方法により相当量蓄積され、管理されているものを指す。データを売買したり共有したりする取引を保護するために設けられた区分で、営業秘密の3要件をすべて満たさなくても保護されうる点に意味がある。複数の相手に提供する以上、非公知性を厳密に満たすとは限らないためである。自社内だけで秘密として囲い込む情報は営業秘密の側で守る話であり、特許の出願や登録の有無ともこの区分は関係しない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 4. 不正競争防止法

問20|開発の契約

AI開発の委託における請負契約と準委任契約の違いとして、正しいものはどれか。

  1. 請負契約は善管注意義務を負う契約で、準委任契約は完成を約束する契約である
  2. どちらも成果物の完成を約束する契約で、保証する精度の水準だけが異なる
  3. 請負契約は仕事の完成を約束し、準委任契約は善管注意義務をもって遂行する
  4. どちらも完成を約束しない契約で、報酬を支払う時期だけが異なっている
正解と解説
正解:C. 請負契約は仕事の完成を約束し、準委任契約は善管注意義務をもって遂行する

請負契約は仕事の完成を約束する契約で、完成しなければ報酬を請求できず、契約に適合しない成果物には責任を負う。準委任契約は事務の処理を委託する契約で、約束するのは完成ではなく、善良な管理者の注意をもって業務を遂行することである。AI開発は学習してみるまで到達できる精度が分からないため、探索やPoCの段階は準委任契約、仕様が固まった実装工程は請負契約という分け方がよく取られる。経済産業省のAI・データの利用に関する契約ガイドラインも、段階を分けて契約する型を示している。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AIに関する法律と契約 6. AI開発委託契約

問21|ハードロー

ハードローとソフトローの区別として、正しいものはどれか。

  1. ハードローは国際的な取り決めを指し、ソフトローは国内の法令を指す
  2. ハードローは罰則のある法令を指し、ソフトローは罰則のない法令を指す
  3. ハードローは新しく作られた法令を指し、ソフトローは古い慣行を指す
  4. ハードローは強制力のある法令を指し、ソフトローは拘束力のない規律を指す
正解と解説
正解:D. ハードローは強制力のある法令を指し、ソフトローは拘束力のない規律を指す

ハードローは、国家が定め違反に強制力が及ぶ法令で、個人情報保護法や著作権法がこれにあたる。ソフトローは、ガイドライン・業界の自主規範・企業の行動指針のように、法的な拘束力を持たない規律である。ソフトローは法令ではないので、罰則のある法令とない法令という切り分けは当てはまらない。国内か国際かという区別でも、新旧の区別でもない。技術の変化が速い分野では、まずソフトローで方向を示し、必要なところだけ法令にするという進め方が取られ、日本のAI政策は基本的にソフトロー中心である。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 8. 国内外のガイドライン

問22|リスク対応

AIの規制や社内対応で言われるリスクベースアプローチの考え方はどれか。

  1. 想定されるリスクを列挙したうえで、すべての用途に同じ水準の対策を課す
  2. 用途がもたらすリスクの大きさに応じて、対応や規制の強度を変えていく
  3. リスクが確認された時点で、その用途によるサービスの提供を一律に止める
  4. リスクの評価は利用者に委ねることとし、事業者は情報の提供のみを行う
正解と解説
正解:B. 用途がもたらすリスクの大きさに応じて、対応や規制の強度を変えていく

リスクベースアプローチは、AIの用途がもたらすリスクの大きさに応じて規制や対応の強度を変える考え方である。同じ顔認識技術でも、端末の画面ロック解除と公共空間での常時監視とでは人に及ぶ影響がまるで違う。用途を問わず一律に強い規制を掛ければ害の小さい使い方まで止めてしまい、一律に緩めれば害の大きい使い方を放置することになる。そこで影響の大きい用途には強い義務を、小さい用途には軽い扱いを割り当てる。事業者側でも、社内のAI案件をリスクの高さで区分し、高リスクのものだけ厳しい審査に回す形で同じ考え方を使う。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 8. 国内外のガイドライン

問23|設計時の配慮

プライバシー・バイ・デザインの考え方として、最も適切なものはどれか。

  1. 企画や設計の段階から、プライバシー保護の仕組みを組み込んでおく
  2. 問題が起きた段階で原因を調べ、必要な対策を後から追加していく
  3. 収集したデータの用途を、利用者からの求めに応じて開示していく
  4. 個人情報を扱う担当者を限定し、権限のある者だけが閲覧できるようにする
正解と解説
正解:A. 企画や設計の段階から、プライバシー保護の仕組みを組み込んでおく

プライバシー・バイ・デザインは、問題が起きてから対策を足すのではなく、企画や設計の段階からプライバシー保護を組み込むという考え方である。データを集めない設計にする、必要な期間で消す、識別できない形で処理する、といった判断は後から入れるほど費用がかさむ。用途の開示や閲覧権限の限定は、それ自体は正しい取り組みだが、いつ組み込むかという観点を欠いており、この考え方の説明にはならない。設計段階からセキュリティ対策を組み込むセキュリティ・バイ・デザインとは、対になる概念である。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 9. プライバシー

問24|代理変数

学習データからセンシティブ属性を取り除いても不公平な出力が残ることがある。その主な理由はどれか。

  1. 属性を取り除くとデータ量が減り、モデルの精度そのものが下がるため
  2. 属性を取り除いても、その属性を含む別のデータで再学習されるため
  3. 郵便番号などの他の特徴量が、取り除いた属性の代わりとして働くため
  4. 属性を取り除く処理そのものが、データの分布をゆがめてしまうため
正解と解説
正解:C. 郵便番号などの他の特徴量が、取り除いた属性の代わりとして働くため

センシティブ属性の代わりとして働いてしまう特徴量を代理変数という。郵便番号は居住地域を通じて人種や所得と強く相関し、出身校や部活動の履歴は性別と相関することがある。こうした特徴量が残っている限り、性別欄や人種欄を入力から外しても、モデルは間接的に同じ差別を学習する。したがって公平性の確認は、入力の項目を削ることではなく、出力を属性ごとに集計して差を測ることで行う。さらに、公平性の定義は属性ごとの合格率をそろえる、誤り率をそろえるなど複数あり、一般にはこれらを同時にすべて満たすことはできないため、用途に照らしてどの定義を採るのかを選んで説明する必要がある。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 10. 公平性

問25|敵対的入力

Adversarial Attack (Adversarial Examples) の説明として、適切なものはどれか。

  1. 学習用のデータに細工したものを混ぜ込み、学習の結果をゆがめてしまう
  2. 大量の問い合わせを行って出力を集め、同等に働くモデルを手元に作る
  3. 配布されているモデルのパラメータに手を入れ、特定の挙動を仕込む
  4. 人には気づけない微小な変化を入力に加え、誤った判定を引き起こす
正解と解説
正解:D. 人には気づけない微小な変化を入力に加え、誤った判定を引き起こす

Adversarial Attack は、人間の目にはほとんど分からない微小な変化を入力に加えて、運用中のモデルに誤った判定をさせる攻撃である。狙うのは推論の段階で、モデル自体は書き換えない。学習用データに細工を混ぜて学習結果をゆがめるのはデータ汚染で、こちらは学習の段階を狙う。大量に問い合わせて同等のモデルを再現するのはモデル窃取、モデルのパラメータや配布物に手を入れるのはモデル汚染であり、それぞれ狙う時点と対象が異なる。いずれへの備えも、設計段階からセキュリティを組み込むセキュリティ・バイ・デザインの考え方で進める。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 11. 安全性とセキュリティ

問26|窃取の区別

AIに対する攻撃のうち、モデル窃取に当たるものはどれか。

  1. 学習用のデータに細工したものを混ぜ、学習の結果をゆがめてしまう
  2. 大量に問い合わせて出力を集め、同等に働くモデルを手元に作り上げる
  3. 出力を手がかりに、学習データに含まれていた情報を推定して取り出す
  4. 配布されたモデルのパラメータに手を入れ、特定の入力で挙動を変える
正解と解説
正解:B. 大量に問い合わせて出力を集め、同等に働くモデルを手元に作り上げる

モデル窃取は、対象のモデルに大量の入力を与えて出力を集め、同等の働きをするモデルを手元に再現してしまう攻撃である。盗まれるのはモデルそのもので、公開APIとして提供しているだけでも成立しうる。これに対しデータ窃取は、出力の観察などから学習データに含まれていた情報を取り出す攻撃で、盗まれるのはデータの側である。学習用データに細工を混ぜるのはデータ汚染、モデルのパラメータや配布物に手を入れるのはモデル汚染であり、前者は学習段階、後者は学習や配布の段階を狙う。何が盗まれるのか、どの時点を狙うのかで整理すると取り違えにくい。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 11. 安全性とセキュリティ

問27|情報の泡

推薦アルゴリズムによる最適化が原因で生じるとされる現象はどれか。

  1. 同じ意見の人どうしで発信と共感を繰り返し、その意見を強めていく
  2. 生成された偽の映像や音声が、本物として広く受け取られてしまう
  3. 好みに合う情報ばかりが選別されて示され、他の情報が届かなくなる
  4. 判断の根拠が内部に隠れてしまい、人が理由を追えなくなっていく
正解と解説
正解:C. 好みに合う情報ばかりが選別されて示され、他の情報が届かなくなる

フィルターバブルは、推薦アルゴリズムが利用者の好みに合わせて情報を選別した結果、その人が泡に包まれたように自分好みの情報しか見えなくなる現象で、原因はアルゴリズムによる最適化にある。利用者は選別されていること自体に気づかない。同じ意見の人どうしが閉じた空間で発信と共感を繰り返し、その意見を唯一正しいものだと信じ込んでいくのはエコーチェンバーで、原因は人が似た者どうしで集まるという性質にある。偽の映像や音声が本物として受け取られるのはディープフェイクとフェイクニュース、判断の根拠が追えないのはブラックボックスの問題であり、いずれも別の中項目の話である。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 14. 民主主義

問28|偽の映像

ディープフェイクの説明として、最も適切なものはどれか。

  1. 深層学習により、実在の人物が話しているかのような映像や音声を作る
  2. 深層学習により、大量の文章から要点をまとめた短い文章を作り出す
  3. 深層学習により、判断の根拠となった画像上の領域を可視化して示す
  4. 深層学習により、実在しない人物の顔写真を新たに生成して並べる
正解と解説
正解:A. 深層学習により、実在の人物が話しているかのような映像や音声を作る

ディープフェイクは、深層学習を使って、実在する人物が言っていないことを言い、していないことをしているかのような映像や音声を作り出す技術と、その生成物を指す。実在の人物になりすます点が中心にあり、実在しない人物の顔を生成することとは狙いが異なる。名誉毀損や詐欺、選挙への干渉に使われ、フェイクニュースの説得力を大きく高める。対策としては、検出技術の研究に加えて、撮影機器や生成の時点で来歴の情報を埋め込み、後から改変を検証できるようにする方向が進められている。文章の要約や判断根拠の可視化は、いずれも悪用の話ではない。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 12. 悪用

問29|来歴の記録

AIの透明性の確保に関して、データの来歴を残しておく目的として最も適切なものはどれか。

  1. 学習に使う計算資源の消費量を抑え、かかる費用を小さくするため
  2. モデルの推論を高速にし、応答が返るまでの時間を短くするため
  3. 学習に使えるデータの量を増やし、モデルの精度を高めていくため
  4. 取得元と加工の過程を追え、問題が起きた原因にたどり着けるため
正解と解説
正解:D. 取得元と加工の過程を追え、問題が起きた原因にたどり着けるため

データの来歴とは、どのデータをどこから取得し、どう加工して学習に使ったかの記録である。これが残っていなければ、出力に問題が生じたときに原因となったデータまでたどり着けず、修正も説明もできない。透明性は、モデルの内部を公開することだけを意味するのではなく、何のために使っているのか、どんなデータで作ったのか、どこに限界があるのかを対象に応じて示すことまで含む。計算資源の削減、推論の高速化、データ量の増加は、いずれも来歴を記録する目的ではない。あわせて、どのデータからどのモデルを経てどの判断が出たのかを追えるようにしておくトレーサビリティも押さえておきたい。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 13. 透明性

問30|倫理の点検

AIガバナンスにおける倫理アセスメントの説明として、適切なものはどれか。

  1. 運用の開始後に、出力の傾向や苦情を継続して見張っていく手続き
  2. 担当部署から独立した立場で、方針どおりの運用かを確かめる仕組み
  3. 企画の段階で、想定される影響やリスクを洗い出して評価する手続き
  4. AIをどう扱うかという自社の方針を文書にまとめ、対外的に示すもの
正解と解説
正解:C. 企画の段階で、想定される影響やリスクを洗い出して評価する手続き

倫理アセスメントは、AIの企画の段階で想定される影響やリスクを洗い出して評価する手続きで、その結果に応じて審査の厳しさを変える。運用開始後に出力の傾向や苦情を見張るのはモニタリング、担当部署から独立した立場で方針どおりかを確かめるのはAIに対する監査、自社の方針を文書にまとめて示すのはAIポリシーであり、いずれもAIガバナンスを構成する別の要素である。これらに加えて、判断の要所に人間の関与を残すこと、後からモデルを作り直せるようにする再現性、判断の経路を追えるようにするトレーサビリティが並ぶ。

根拠:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定 試験出題範囲(シラバス 2024)」第1.4版(2026年5月11日) 法律・倫理分野 AI倫理・AIガバナンス 18. AIガバナンス

演習:この章の問題を解く

ランダム出題の演習ツールです(JavaScript が有効な場合に動きます)。上の「確認問題」はそのままでもすべて読めます。

※ 解説は学習用の情報提供です。最新の出題範囲・制度は必ず公式発表をご確認ください。
※ 出題は、AWS公式ドキュメント・試験ガイド、JDLA「G検定 試験出題範囲(シラバス2024)第1.4版」、一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会の公開情報とPython公式ドキュメントに沿った仮の宿 学習室のオリジナル問題です(2026年8月時点で確認)。Pythonの問題はすべて実行して確認しています。試験制度・出題範囲は各実施団体の公式発表をご確認ください。